アベノミクスはIoTにどう対応するのか

生かせ!知財ビジネス
特許庁主催の国際シンポジウムで講演するリンゲス氏=16日、東京・大手町の経団連会館

 政府はこれまで打ち出した「日本再興戦略改訂」や「産業競争力の強化に関する実行計画」で、IoT(モノのインターネット化)時代到来への検討を早急に進める方針だが、知財業界からは悲観的な声が出始めている。アベノミクスはIoTにどう対応していくのか。

 ある政府関係者は最近「多くの産業で将来、上流から下流まで外資系の傘下に組み込まれる可能性がある。非常に悩ましい」と漏らした。2020年の東京オリンピック開催をてこに経済再生を進めた先に、すでに大きな課題が見えてきているという。時を同じくして「日本企業はセンサー分野以外、生き残れないのではないか」という声が、都内にある複数の国際知財コンサルタントから聞かれるようになった。IoTの基盤技術はセンサー、データ解析、クラウドなどだが、センサー以外の重要特許はほとんど欧米企業に押さえられているからだ。

 そのセンサーですらIoT化でクラウドとの接続などを行う際に日本が主導権を握らないまま標準化されれば「企業はオープンな環境の下に競争にさらされ、いくら高度な技術を開発しても低価格化を余儀なくされる」と都内の大学関係者は予測する。

 こうした状況で企業経営者に危機感が生まれないわけがない。先頃、都内で特許庁主催の経営幹部向け国際シンポジウムが開かれ、米IBM法務部門・知的財産最高責任者のマーク・リンゲス氏の講演に注目が集まった。IBMが進める「コグニティブ(認知)ビジネス」とIoTの関係を説明し、技術や特許だけでなくビジネスモデル、データ、ソフトウエア、契約の重要性を指摘した。人工知能が膨大なデータを解析して学習した知識を活用させるのが「コグニティブビジネス」だ。あらゆる産業の、経営を含めた全ての「判断」に関与可能な巨大ビジネスであり、IBMは既に世界戦略を始めている。

 一方、アベノミクスのIoT政策は、IBMのような世界戦略を描けているのか。国内の交通、エネルギー、医療など個別分野の課題解決ではなく、IoTではもっと全産業、全世界を貫く根本的な課題に対峙(たいじ)する必要があるのではないか。少なくとも知財の分野は、特許権などの産業財産権だけでは十分な戦略を描けなくなっている。新年度は新たな発想で世界をリードする政策、制度の登場に期待したい。(知財情報&戦略システム 中岡浩)