半農半電と菜の花除染で南相馬復興
松本真由美の環境エネルギーDiary東日本大震災から5年目の春を迎えました。東京電力福島第1原発事故により、今も多くの方々が避難している福島県南相馬市。ここで暮らす人たちを支援している2つの取り組みを取り上げたいと思います。
◆ソーラーシェアリング推進
農林水産省が農地転用にあたるとして認めていなかった農地への太陽光パネルの設置を認めた2013年4月以降、ソーラーシェアリング(半農半電)が広がりを見せています。
南相馬市原町区の太田地区では、震災と原発事故の影響による農業の減収を補うため、半農半電の推進モデル地区としてソーラーシェアリングが進められています。実に2年4カ月間に9カ所のソーラーシェアリングが稼働。プロジェクトを推進してきたのが一般社団法人「えこえね南相馬研究機構」です。
プロジェクトの第1号が稼働したのが13年8月。地元農家の奥村健郎氏と同機構による「奥村農園発電所」(発電容量30キロワット)が運転を始めました。14年から計8カ所のソーラーシェアリング設備(総発電容量322キロワット)の系統連系が終了し、15年11月11日には、関係者を招いてお披露目会を開催しました。全9カ所の設備で東北電力に全量売電しています。
短期間に多くのソーラーシェアリングを実現できた理由を同機構のコーディネーター、中山弘氏に伺いました。
「ソーラーシェアリングは農家の協力抜きに成立しません。第1号の奥村氏が積極的に周辺の方たちに働きかけてくれたことが大きい。奥村氏は(1)ソーラーシェアリングをやりたい農業者のリクルート(2)具体的な設置場所の選定と栽培作物の調整(3)設備設置費の3分の1を農家が出資することの了解の取り付け(4)土地使用承諾書への押印と回収(5)地権者説明会の案内-などを行い、設置農業者を集めてくれました」
さらに「具体的な設置にあたっては発電設備のレイアウト、作物収量が8割以上の証明、農業委員会との調整、設置工事の推進・管理、電力会社の連系の推進、資金のやり繰りなど高橋荘平代表理事をはじめ、えこえね南相馬研究機構の全員が協力して進めてきました」という。
◆助成対象として融資に信頼
そこで高橋氏に話を伺いました。
--一般にソーラーシェアリングは長期の融資を得るのが難しいといわれています
「ソーラーシェアリングを設置した地権者はいずれも地元の優良農家です。ですから金融機関の絶対的な信頼感がありました。地元の農家が設置するのでちゃんと農業をやってくれるだろうととらえてくれました。また政府の助成金も利用しています」
経済産業省資源エネルギー庁補助事業である原発30キロ圏内を対象とした14年度「再生可能エネルギー発電設備等導入促進復興支援補助金(半農半エネモデル等推進事業)」は原発周辺の自治体の再生エネ設備設置に3分の1の補助をするものです。
「受けた補助金の半分は、地元のふるさと再興事業に充てるという条件がついていますが、それでも6分の1の実質補助となるのは助かりました。それで当初3、4カ所だった設置予定を約2倍の8カ所にすることができました。金融機関から融資を受ける上でも、助成事業の対象になっていることは信用が増すとともに、事業計画上の不安を少なくすることに役立ちます」
--普及における課題は
「農地転用許可を取るのは簡単ではありません。栽培実績を共有しながら、転用許可の加速を図りたいと思います。固定価格買い取り制度(FIT)に基づく太陽光の買い取り価格が低下していることから、設置へのモチベーションが下がっています。12~15年で投資を回収するには、イニシャルコストを税込みで1キロワット当たり27万円程度以下にしたい。小規模設備で収益を確保するのは大変ですので、メーカーにも呼び掛けて検討を進めています。またソーラーシェアリングを加速するような設置への助成事業にも期待しています」
--南相馬ソーラーヴィレッジの今後の計画は
「9カ所でしっかり実績をつくることが大切です。また、さらなる普及を目指し、集落営農や農地の圃場(ほじょう)整備と連携して設備を拡大していきたい。このため1ヘクタールほどの圃場で500キロワットの高圧連系ができないか、さらに農家が協力し合って共同購入と設置を行うことで設置コストを抑えることができないか検討しています。ソーラーシェアリングのモデルケースとして、広く世の中にアピールしていきたいと思います」
◆経済的自立目指す大きな力
13年秋以降、南相馬市は「福島復興・菜の花プロジェクト」も進めています。チェルノブイリ原発事故後、ウクライナで菜の花を使って除染を行い、農業の再生を実践してきた取り組みを南相馬でも取り入れようと、地元有志らが南相馬農地再生協議会を立ち上げました。このプロジェクトには、えこえね南相馬研究機構や地元農業団体も協力しています。南相馬農地再生協議会の代表理事、杉内清繁氏に話を伺いました。
「菜の花は土嚢(どのう)中の水に溶けているセシウムやストロンチウムなどの放射性物質を吸収する能力が最も高いといわれる植物の一つです。放置状態だった圃場で雑草処理から始め14年秋、15ヘクタールにナタネを播種、15年春には9トンの菜種を収穫しました。募金や福島県の営農再開支援事業を活用し、汎用(はんよう)コンバイン、トラクターの購入や委託による搾油を行いました。検出器の測定でも南相馬のナタネ油にはセシウムは検出されていません。遺伝子組み換えや薬品、添加物などの心配もありません」
同協議会が栽培、搾油した食用ナタネ油は「油菜ちゃん」として商品化されています。15年夏には石鹸メーカーのラッシュジャパンから、石鹸素地の原材料として油菜ちゃんを使いたいという話が舞い込みました。石鹸「つながるオモイ」は3月1日から数量限定で販売されています。
南相馬ソーラーヴィレッジや菜の花プロジェクトといった市民力を生かした取り組みは、農業やコミュニティーの再生、経済的自立を目指す大きな力になっています。
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【プロフィル】松本真由美
まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。
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