一番身近な「ゲートキーパー」は親自身 柿澤一二美

講師のホンネ

 もし、お子さんに「死にたい」と告げられたら、あなたはどんな言葉を返すでしょうか?

 「子供の悩み専門」のカウンセラーを始めて6年目。小・中・高校生の自殺者数は、内閣府の発表を見ると毎年300件に上る。自殺の原因や動機は、悩みの足し算からくる。家族や親子問題(不仲・しつけ・叱責)、病気の悩み(鬱病・統合失調症・その他の精神的疾患)、男女問題(恋愛・交際)、学校問題(進路・学業不振・学友との不和)など複雑に絡み合った「悩みの足し算」により、心のコップから悩みがあふれ出し自殺に追い込まれる。自殺の危険が極めて高いと認識されるサインの中には、リストカットや無免許運転による事故、医師の指示による治療の拒否、子供による自殺願望の表明(メール・死後の世界の話題)などがある。

 「消えてなくなりたい」「生きている目標も意味も見いだせない」といった言動も自殺を示す危険なサイン。子供は本来、親や社会に向ける怒りや不満といった感情を外に出す。しかし、自ら命を絶とうと思う子供は自尊感情が低い。「私はダメな子供。生きる価値がない人間だ…」と、自分を責め続けた果てに「自殺」がある。

 「死にたい…」と、お子さんから告げられたときは、まず、胸の内を最後まで聞くことが大切。「何をバカなことを言っているんだ」と、間違ってもシャッターを下ろさないでほしい。子供は世界中の誰かではなく、あなたに聞いてほしいのです。しっかりと時間を取り、お子さんが何よりも大切であるということを示してほしいのです。お子さんの話を聞き終えたら、「あなたが死んだら私は悲しい。死なないで!」と、あなたの言葉で伝えれば大丈夫です。

 こうした中で、内閣府は「ゲートキーパー」を推進している。これは(1)悩んでいる人に気づき(2)声をかけ(3)話を聞いて(4)必要な支援につなげ(5)見守ることができる人、いわば「命の門番」を増やす取り組みと位置づけられている。誰も責めずに、1人で旅立った子供の遺書には、「弱い私でごめんなさい。ではさようなら」という言葉が多い現実もある。子供にとって一番身近な「ゲートキーパー」は親自身。わが子の危険サインに気づいたときは、温かく寄り添いながら見守ることが一番の薬となる。

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【プロフィル】柿澤一二美

 かきざわ・ひふみ 東京都生まれ。家族カウンセリング研究所代表、家族相談士・カウンセラー。幼少期に両親の不仲に悩んだ体験から、子供の悩みに特化した家族カウンセリングとサポートを行う。中学生から大学生の2男2女の母。4人の子育て経験と心理学のスキルを融合させた独自のノウハウを講演などで伝えている。