「私たち結婚しないんです」 ノンフィクション作家・青樹明子
専欄中国ではネット発の記念日というのが実に多いが、5月20日が恋人の日だったというのは、今年初めて知った。520の発音が、我愛●と似ているからなのだそうだ。しかも520は「告白の日」ということで、2月14日にバレンタインデー(中国では恋人の日)という大きなイベントもあり、中国で恋愛するのは大変だなあと同情してしまう。
恋愛・結婚は、どこの国でも大変なことだが、中国は特に大変である。結婚するには「持ち家がある」「車がある」「一定以上の収入がある」などの絶対条件が必要なうえ、結婚後も、まだまだ一人っ子が主流の中国では、子育てにかかる時間とお金が日本の比ではない。
こんなに大変なら先延ばしにしよう、と若者たちが考えても不思議はない。
今年の春節(旧正月)、地下鉄の駅に「私たちに結婚を強要しないで」というポスターが出現したのは記憶に新しい。中国では、春節で帰省した子供に、見合い話を勧めることが多いからだ。
ポスターのコピーはこうである。「世界はこんなに広い。人生色々。独身だって幸せよ」。彼らは「結婚できないんじゃなくてしないんです」である。
何故(なぜ)結婚しないの? と聞かれるとこう答える。「理想の相手がいない」「縁に出会ってない」「今の生活に満足」「独身に慣れた」「結婚できるほど自分はまだ成熟していない」…等々である。
重慶市に住む29歳の独身男性は、テレビのインタビューにこう答えている。-貴方の生活で大切なものは何?「仕事です」-他には?「親孝行かな」-他には?「毎日幸福に暮らすこと」-恋愛は?「積極的には求めないね」
このような風潮のなか、独身の子供たちを抱える父母たちはおおいに焦る。父母たちが子供にかわって婚活するので有名な上海の人民公園では、5月1日の休暇に、1000人以上が集まったという。老後は子供に面倒を見てもらうというのが中国の習慣であるため、子供が独身で、孫もいないとなると、自分たちの老後生活にも支障が出る。
若者の非婚化は、国にとっても憂えるべき問題だ。少子高齢化対策で、いくら一人っ子政策を見直したところで、前提条件の結婚が成立しなければ意味がない。
若者の非婚化を取り上げた中国中央テレビの番組は、最後にこう締めくくった。「ネットに向かう時間を減らそう。恋愛は逃避ではない、努力である」
この当たり前の人生の道理、若者たちに通じるのだろうか。
●=にんべんに尓
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