産学連携の“本格化”へJST動く
生かせ!知財ビジネス科学技術振興機構(JST)は、都内で開いた大学の知的財産マネジメントに関するシンポジウムで、イノベーション創出へ向けて産学連携を“本格化”させるため、JSTが検討中の大学支援策を公表した。(1)「大学技術移転のロールモデル」の策定と活用(2)大学間の知財マネジメント担当者が交流できる場の設定(3)知財マネジメントの専門人材派遣などだ。
(1)は大学の特許活用の高度化を図るため実績のある10大学の実務・ノウハウを整理したものだ。具体的には、大学研究者の発掘、出願前から企業訪問し発明に潜在する市場性を把握するプレマーケティング、出願前契約を視野に入れたマイルストーン契約、技術移転先企業への粘り強い訪問活動などが含まれる。今回のシンポジウムでは、ロールモデルの暫定版を公表し活用を呼びかけた。
(2)は教育だけでは得られない知識や人脈を得る情報交換や相談の場、ネットワーク形成の場だ。今年度中に実施する。
(3)は大学での知財マネジメントの啓蒙(けいもう)と支援を行う専門人材派遣で、準備を進めている。
JSTの後藤吉正理事は「今春企業から大学などへの投資を10年で3倍に増やす政府方針が出たが、大学にもそれに見合う成果をコミットメントする必要が生じた。産学連携の本格化とはそういうことだ」と言う。
つまり、企業と真剣につき合えるレベルの人材、組織、規定、契約、情報管理、産学連携や知財マネジメント能力が大学に求められるようになる。例えば、複数の大学や企業が複雑に絡む大型の産学連携案件が出たらどうするか。まさに本格的な交渉と契約が求められ、今まで使っていた契約書のひな型などは通用しなくなる。
さらに最近では、あらゆるものをインターネットでつなぐIoTやAI(人工知能)、超スマート社会の実現を目指すSociety5.0が浸透し始めた。大学でも企業同様にコア領域を設定し、中核技術は秘匿、権利化する一方で他社に公開、ライセンスを行い市場拡大と競争力確保を実現する「オープン・クローズ戦略」で学外と向き合うアプローチが必要とされているほか、大学に蓄積した膨大なデータを新たな“財産”として認識する動きもある。
大学はこれら課題にどう対応し、わが国のイノベーション創出に貢献していくのか、支援機関はいかなる支援をするのか、今後の動きが注目される。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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