「ベントレーのバンパー外れたやろ!」超高級車オーナー激怒…悪いのはどちら?

 
料金踏み倒しを防ぐコインパーキングの「フラップ板」。出庫の際も上がったままだったとして、超高級車の所有者が「バンパーが外れた」と訴えたが、判決は…

【衝撃事件の核心】

 都会のコインパーキングは、買い物客にも外回りのビジネスマンにもありがたい存在だ。だが、このコインパーキングをめぐって、トラブルが多いのも事実。大半が料金に関するものだが、大阪で問題となったのは、料金踏み倒しを防ぐための「フラップ板」だった。出庫の際も上がったままで、「後部バンパーが外れてしまった」というのだ。しかも物損被害に遭ったのは「超」のつく高級車で、最低でも1000万円は下らない。所有者は修理費用約150万円を求めて大阪地裁に提訴した。フラップ板はなぜ、超高級車を止めたのか。

 駐車していない!?

 それはラーメンチェーン店に併設された無人のコインパーキングで起きた。

 現場は一般的なフラップ式駐車場。所定位置に車を止めると、地面に設置されたフラップ板が自動的に上昇、精算機で料金を払うと下降する仕組みだ。

 ロールス・ロイスと並ぶ英国の超高級車、ベントレーを運転する男性は、入り口真正面のスペースにバックで車を止めた。

 いや、「止めた」というと語弊があるかもしれない。まさにこの点が、これから起きるトラブルの発端となるからだ。

 男性は知人と待ち合わせをしていた。知人が来るまで時間がかかるようであれば駐車するつもりだった。ただ、それがはっきりしないために、後輪がフラップ板を超えないぎりぎりの位置で待っていたという。つまり、フラップ板を越えていたのは車の後部バンパーだけだったわけだ。

 知人から「すぐ帰る」と伝えられ、まもなく男性は車を前進させた。後輪がフラップ板を越えていない以上、上がっているはずがないという認識だった。

 ところが、フラップ板は作動していた。車の前進によってベントレーの後部バンパーに食い込み、バンパーは外れてしまった。

 センサーの反応

 なぜ板は上がっていたのか。ここで「ループコイル」という機器の存在が浮かび上がってくる。

 ループコイルとは、地面に埋め込まれたセンサーのこと。現場のパーキングではフラップ板の手前に敷設され、車両を感知すると信号を送る。

 精算機は検知信号を受信してからしばらく状態に変化がなければ「駐車」とみなし、フラップ板へ上昇命令信号を発信する仕組みになっていた。

 つまり、フラップ板上を通過していなくても、車室(白線で区切られた駐車区画)内に一定時間滞留していれば「駐車」とみなされ、板は上がるのだ。

 「認識可能だった」

 バンパー一つとはいえ、何せ超高級車である。かかった修理費用は約150万円に上ったという。男性側は損害賠償を求め、コインパーキングの運営会社を相手取って大阪地裁に訴訟を起こした。

 男性側もフラップ板が上がったことがおかしい、とは言っていない。問題としたのは運営会社の説明・告知義務だった。男性側は「車両が通過していなくても、センサーの反応によってはフラップ板が上がる可能性があったのに、コインパーキングにそうした告知はなかった」と訴えた。

 果たして6月に言い渡された地裁判決は、男性側の主張を認めず、請求を棄却した。

 現場について「無人のフラップ式駐車場であることは一見して明らか」とした上で、運営会社側は有料駐車場であることを看板で表示し、車室の位置も白線で明確に表示している、と指摘した。

 センサーが車を検知した後、フラップ板が上昇するまでの時間は初期設定では2分だったが、運営会社側は3分に設定して余裕を持たせていた。

 判決は「駐車位置を決めるまでに必要な時間を超えて車室内に滞留すれば、フラップ板が上昇する可能性があると十分認識が可能。設定の3分間は駐車位置を決めるまでに必要な時間として十分である」と述べ、わざわざ告知する義務はなかったと結論づけた。

 看板表示を徹底

 一般社団法人「日本パーキングビジネス協会」(東京都)によると、全国のコインパーキングは少なくとも約6万5千カ所に上る。

 平成18年施行の改正道路交通法で違法駐車取り締まりの民間委託が解禁されてから施設数が増加したとみられ、国民生活センターにもここ数年、コインパーキングをめぐる相談が、年に800~900件のペースで寄せられている。

 トラブルで多いのは「看板に表示されていた料金より高い金額を精算時に請求された」という料金表示に関するものだが、「精算後も故障によって板が下がらず、車が傷ついた」といった、フラップ板の昇降をめぐる相談も少なくない。

 関東のあるコインパーキング運営会社の担当者は、そうしたトラブルを避けるため「『出庫する際にはフラップ板が下がっているかを確認してください』という注意書きを、必ず目につく場所に表示するようにしている」と話す。

 よくあるのは、精算してから出庫までに時間がかかり、再びフラップ板が上がってしまうというケース。特に飲食店併設のコインパーキングでは、食後のたばこを車内で吸うなどして出庫まで時間をかける人が多い。

 それゆえ、看板には「精算後、3分以内に出庫しない場合は再びフラップ板が上がります」と記載しておいて、実際の再上昇時間を5分にするなど「長めに設定している場所も多い」と明かした。

 それでも、不正駐車や料金への苦情がなくなることはない。トラブル防止のために看板への表示を徹底しているという。

 法的な告知義務があるかどうかはともかく、最近の家電製品の取扱説明書のように、リスクヘッジとしての注意書きは増やしておくべきなのかもしれない。

 「白線の内側には『ループコイル』が埋まっています。ループコイルは電線をコイル上にしたもので…」

 テクノロジーが進化しても、看板が小さくなることはなさそうだ。