不倫調査で“ドロドロの暗闘劇” 別れさせ屋、GPS、盗聴…スパイ映画みたい?
【衝撃事件の核心】
探偵を雇い、密会現場を押さえるのは、まだほんの序の口。プロの調査にも飽き足らない妻は、自ら不倫相手の郵便物をあさって個人情報を入手し、さらに「別れさせ屋」まで使って2人を引き離そうとした。対する夫は、妻の疑念を察知するや、自宅に録音機を仕掛けて動向を監視、妻が裏工作をしている事実を突き止めた。結局、双方とも互いの行為で「精神的苦痛を受けた」として訴訟合戦に発展した。スパイ映画さながらの“暗闘劇”の結末は-。
「もしかして浮気?」女の勘
裁判所の判決文から事実関係をたどっていく。
中学校の同級生だったA子とB男は結婚し、子宝にも恵まれた。幸せな家庭生活にほころびが生じるのは、ほんのささいな変化がきっかけだった。B男が近くのマッサージ店で、施術を受けるようになったことだ。その店でC子が働いていた。
B男はいつしかC子を指名するようになり、20回ほど通いつめるうちに2人の仲は縮まっていった。
このころ「女の勘」が働いたのか、A子は夫の浮気を疑い始める。インターネットで探した調査会社に依頼し、夫婦の自宅、B男が経営する会社、B男の実家で張り込みや尾行を行った。
費用は5日間で100万円近くかかった。このときは、浮気の確証は得られなかった。
虚偽出張でデート
それから1年後、A子のアンテナが再び反応した。B男が「出張」と言って、帰宅しないことが複数回続いたのだ。A子はB男が「北陸出張」に出かけたタイミングを見計らい、再び調査会社に依頼をかけた。
当日、探偵がB男を自宅から追尾すると、B男は勤務先の駐車場から車に乗って移動。向かった先は北陸ではなく、とあるマンションの前だった。
B男はそこでC子をピックアップするや、近くのショッピングセンターで手つなぎデートを楽しんだ後、某高級ホテルへ。レストランで食事をし、同じ部屋にチェックインした。再び姿を現わしたのは翌日の昼前で、前日と同じように2人で手をつなぎながら車に乗り込んだ。
探偵から「ホテル宿泊」の一報を受けたA子は、B男の携帯電話を鳴らしたが応答はなかった。
数日後、A子は調査会社から証拠写真と報告書を受け取り、それをもとにB男を問い詰めた。
しかし、B男もなかなかに手ごわい。浮気を全面否定したうえで、C子を部屋に呼んだのは、あくまで出張マッサージを受けるためであり、2人が「男女の関係」であるというのは「A子の妄想に過ぎない」と言い放ったのだ。
スパイまがいの大胆行動
A子の追及はここで終わらない。この時点ではまだ、C子という名前を含めて不倫相手の身元を特定できていなかった。20万円を払って追加調査を頼み、C子の姓とマンションの部屋番号は知ることができた。だが下の名前も、職業も分からない。
A子はここで、大胆極まりない行動に出る。
自らC子のマンションを訪れ、C子宅の郵便ポストを勝手に開けたうえ、郵便物を抜き取った。A子はこのスパイまがいの手段で、C子のフルネームをつかんだ。
この情報をもとにA子は別の調査会社にC子の家族構成を調べるよう求めた。調査会社側の弁護士は職務上の請求を装ってC子の住民票と戸籍謄本の写しを入手。C子の生年月日、本籍地、父親の氏名まで突き止めた。
別れさせ屋も登場
A子は次に「別れさせ屋」と連絡を取った。男女間の交際を終わらせることを目的とする業者で、別れさせたい相手に工作員を接触させ、口説き落として従来の関係を壊したりする。自由恋愛を意図的に破壊する別れさせ屋をめぐっては、「公序良俗に反する」として訴訟に発展するケースも少なくない。
A子の依頼を受けた工作員は、C子の勤務先のマッサージ店に客として訪れ、複数回にわたってC子を指名した。家族や交友関係などプライベートに関する質問をしたほか、帰宅途中のC子を待ち伏せて接触を図ったり、B男の車に衛星利用測位システム(GPS)を付けたりして行動確認を行った。
だが、B男もここで攻勢に出る。尾行や監視に気づき、さらにC子からも「身の回りで不審な出来事が続いている」と聞かされ、A子がかんでいると確信した。そこで自宅に録音機を仕掛けたのだ。
予感は当たった。親族や友人とのA子の会話から、調査会社や別れさせ屋を雇っている事実が明らかになった。
司法判断は…
結局、関係の修復を断念したのか、A子は子供を連れて家を出た。C子はというと、B男の子供を出産していた。
暗闘は終わり、訴訟という公の場にステージを移す。A子はC子を相手取り「不貞行為で結婚生活が破綻(はたん)した」として300万円の損害賠償を求める訴えを起こした。一方、B男とC子は「A子の不法行為で精神的苦痛を受けた」として、計550万円を求めて提訴した。
裁判所は、調査会社が押さえた証拠写真を踏まえ、B男とC子の不貞行為を認定。C子に対し、A子に200万円を支払うよう命じた。
一方で、A子がC子の郵便物を抜き取ったことや、家族構成、実家の住所を調べたことについて「C子のプライバシーや人格権を侵害した」として不法行為と判断。別れさせ屋については「交際中の男女の破局を促すための工作は人格権(性的自由)に対する侵害に当たる」と述べ、A子に対しC子に約20万円を支払うよう命じた。B男の請求は棄却した。
B男とC子は控訴した。不倫をめぐる法廷闘争は第2幕に移る。