90後が五輪を変える ノンフィクション作家・青樹明子

専欄

 オリンピックは数々の名言を生むが、ついに中国でもメガ級の流行語がリオで生まれた。「洪荒之力」である。

 競泳女子100メートル背泳ぎ準決勝で、20歳の傅園慧さんは3位で決勝進出を決めた。試合直後、中国メディアのインタビューで。

 記者「58秒95という結果でしたが…」傅選手「えっ? そんなに速かったの、私?」記者「まだ余裕があったのでは?」傅選手「余裕なんてないわ! 私は力を出し切ったから大満足よ!」記者「決勝への自信のほどは?」傅選手「自信なんてないわ。(この試合で)力を尽くしたから、満足しているの」

 この時、傅選手が使った言葉が洪荒之力である。大ヒットしたテレビドラマ「花千骨」に登場した「神がかりのような力」を指す。転じて、「自分の力を超越したような力を発揮した」という意味だろうか。

 傅選手のキャラクターもあって、これが大いに支持された。判で押したように決まりきった受け答えをするステレオタイプの中国人アスリートとは違い、生身の人間性を見せた彼女は、一躍スターとなったのである。

 洪荒之力とほぼ同時期、中国のネットにはこんな動画が出回った。「選手たちは選手らしくなったが、記者はやはり中国式である」

 2015年世界選手権で優勝し、中国で大ブレイクした超イケメンといわれる寧沢濤選手。リオ五輪では思うような結果が出せずに終わった。

 試合直後のインタビュー。

 記者「残念な結果に終わりましたが、緊張していたんですか?」寧選手「緊張はなかったですよ。これが今の実力です」記者「リオの地に慣れてないのでは?」寧選手「それはない。これが今の実力です」記者「胃腸の具合でも悪かったんですか?」寧選手「体調に問題はありません」

 思うような結果が引き出せなかったのは記者のほうだ、とネット民は揶揄(やゆ)している。

 バタフライに出場した李朱濠選手。フルマラソンを終えたかのように、息絶え絶えで記者の前に登場。記者「ものすごく疲れているようですね」李選手「ほんとに疲れた! 死にそうだ! 少し休ませてほしいよ!」記者「…、試合はかなり苦しかったんですか?」李選手「200のバタフライはほんとに苦手なんだ!」

 アスリートたちは90後(1990年代生まれ)が多い。大人たちをして「宇宙人のよう」と形容される新世代たちは、中国のオリンピックを変えていっているのは確かである。