Science View
≪図2014年9月11日午前8時25分の神戸市付近における雨雲の分布≫解像度100mのシミュレーション結果は、観測データに非常に近いことが分かる

 □理化学研究所 計算科学研究機構 研究部門 データ同化研究チーム チームリーダー・三好建正

 ■「京」と最新鋭気象レーダを生かしたゲリラ豪雨予測

 現在のスーパーコンピュータを使った天気予報シミュレーションは、方眼紙のように日本全体を縦横1kmより大きなマス目に分割し、1時間ごとに新しい観測データを取り込みながら行っている。しかしゲリラ豪雨のように、わずか数分の間に積乱雲が急激に発生・発達するような現象を予測するには、非常に短い時間間隔で新しい観測データを取り込む必要がある。また1kmより大きなマス目では、ゲリラ豪雨を引き起こす積乱雲を十分に表現できない。

 そこで、理研の科学者を中心とした国際共同研究グループは、理研のスーパーコンピュータ「京」と、「フェーズドアレイ気象レーダ」という最新鋭の気象レーダを生かし“観測エリアを100m単位の細かなマス目に分割した上で、30秒ごとに新しい観測データを取り込んで更新する”という、これまでとは桁違いに高精度な天気予報シミュレーションを実現し、実際のゲリラ豪雨の動きを詳細に再現することに成功した。

 天気予報の根幹をなすのは、シミュレーションと実測データを組み合わせる「データ同化」と呼ばれる手法である。次世代の高精細シミュレーションと高性能センサを組み合わせる革新的な技術により、今回、従来とは桁違いのビッグデータを生かす「ビッグデータ同化」を実現した。この技術により、これまで想像もつかなかったような高速かつ高精細な天気予報が可能となり、天気予報に革命をもたらすことが期待できる。

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【プロフィル】三好建正

 みよし・たけまさ 2000年京都大学理学部卒業、気象庁入庁。03年から2年間、人事院行政官長期在外研究員として米国メリーランド大学に留学、博士号を取得。気象庁予報部数値予報課技術専門官、メリーランド大学助教授を経て、13年1月から現職。

 ■コメント=これまで想像もつかなかったような新しい 天気予報を実現し、気象災害を減らしたい。

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 □理化学研究所 理研CLST-JEOL連携センター 固体NMR 技術開発ユニット ユニットリーダー・西山裕介

 ■タンパク質の二次構造を決定する手法を開発

 タンパク質は多数のアミノ酸が鎖状につながってできた長い分子で、この鎖が複雑に折り畳まれることで立体構造が決まる。アミノ酸の並び方をタンパク質の一次構造と呼ぶのに対し、部分的な立体構造のパターンを二次構造と呼ぶ。二次構造の一つで、シート状の構造をとるβシートは、タンパク質において、正常な立体構造や機能の維持に必須である。

 一方で、アルツハイマー型認知症やプリオン病など、タンパク質の異常な凝集が原因となる疾患にも関わることが知られている。これらの原因タンパク質に含まれるβシートの解析は容易ではない。現在用いられている唯一の方法が、核磁気共鳴(NMR)法の一種である固体マジックアングル試料回転NMR法(固体 MAS NMR法)である。ただしこの方法では、解析対象となるタンパク質を窒素の同位体15Nや炭素の同位体13Cなどで標識する必要があり、応用範囲が限られる。

 今回、理研の科学者を中心とする国際共同研究グループは、NMRでの観測が非常に難しかった窒素の同位体14Nを用いた固体 MAS NMR法を開発し、タンパク質に含まれるβシートの種類を区別することに成功した。14Nは地球に存在する窒素原子の99%以上を占める同位体であり、天然状態のタンパク質がそのままNMR解析できることを意味する。NMR法の適用範囲が広がることで、今後、タンパク質の立体構造解析や創薬への応用が一段と加速すると期待できる。

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【プロフィル】西山裕介

 にしやま・ゆうすけ 2002年京都大学大学院理学研究科化学専攻博士課程退学、博士(理学)。理化学研究所研究員を経て、07年9月から日本電子(株)研究員(現職)。14年11月から理研CLST-JEOL連携センターユニットリーダー兼任。

 ■コメント=核スピンを自由自在に操れる固体N MRの能力と魅力を最大限発揮したい。

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 ■理研と企業が一体となって研究開発する場「産業界との融合的連携研究制度」

 理化学研究所は、幅広い分野の研究成果や最先端技術をより迅速に実用化へつなげることで、社会的課題を解決しようとしている。そのため、企業と理研が基礎研究から実用化研究まで一体となって研究開発を推進する場「バトンゾーン」を設け、その一環として、産業・社会のニーズと理研が有する最先端の研究シーズを融合した「産業界との融合的連携研究」を実施している。この制度では、ヒト・モノ・カネといった研究資源をマッチングし、企業と理研が一体となった融合研究チームを理研内に設ける。そして、チームの主宰者となる企業研究者を中心に企業主導で研究開発を実施する。

 現在16チームが活動しており、工学からバイオまで多岐にわたる分野で研究開発を行っている。9月1日に、2017年度から新たに開始する研究課題の公募が開始された。締め切りは11月18日。制度の詳細および応募手続きについては、下記URLを参照。

 担当者は「企業と理研が、理研の中に共同研究チームを設置し、事業を推進できることがこの制度の最大の魅力。単なる理研の技術移転にとどまらず、理研の総合力を生かした更なる連携研究への発展や企業ニーズを取り入れた最先端研究成果の創出へとつながるように進めていきたい」と語る。

 ◆産業界との融合的連携研究制度に関するHPおよび相談窓口

  http://www.riken.jp/outreach/programs/entry/

  理化学研究所 産業連携本部 イノベーション推進室

  (電)048・462・5459

  E-mail:yugorenkei@riken.jp