蓮舫氏の二重国籍はなぜ問題なのか 権利と義務は表裏一体

高論卓説

 租税回避と同根、モラルハザードも

 蓮舫氏の二重国籍問題が大きな社会問題となった。基本的に日本は二重国籍を認めていない。背景には日本の国家としての成り立ちとアイデンティティー、そして、安全保障上の理由がある。多重国籍を認めている国と比較し、日本が遅れているなどと批判的な意見を述べる人もいるが、国家としての成り立ちや地政学的な違いが存在し、一概に遅れているなどという話ではない。

 例えば、大陸では、歴史的にも文化的にも多くの民族が入り乱れており、日本のように『自然国境』で遮られておらず、民族と国家の在り方が違う。また、移民国家である米国では、移民が当たり前のため、米国内で生まれたことで国民と認める『出生地主義』が採用されている。それに対して、島国である日本では民族性を優先する『血統主義』が採用されてきたわけだ。

 そして、日本が単純に排他的であるかといえばそうではない。両親のどちらかが他国の国籍を持つ場合、『国籍選択の自由』を与えており、国籍を選ぶ自由は存在する。また、外国人であっても一定の条件さえ整えれば日本に帰化することもできる。

 基本的に、国籍選択や帰化の際には、他国の国籍を放棄する必要があるが、これを努力義務とすることで、ブラジルのように国籍放棄を認めていない国や政治的理由などにより国籍放棄できない人への人道的配慮もしてきた。

 問題は、法の趣旨に反し、救済のために作られた行政運用のための規定と穴を悪用する人の存在だ。

 これは『パナマ文書』で問題になった『租税回避問題』とも通じる部分がある。基本的に国民の権利と義務、課税や国籍の問題はそれぞれの国家の主権の範囲だ。主権が認められていることで法制度や社会の仕組みも国家により違う。この制度的な違いを利用し、国家をまたがり、または複数の国の地位を得て、それぞれの『良いところ取り』を行い、事実上の脱税行為を行ってきたのが国際的租税回避だといえる。

 そして、現在、このような行為は世界的にも強い批判にさらされている。欧州連合(EU)はアップルに対して、約1.5兆円という膨大な追徴課税を求めるアクションを起こし、他の同様の企業に対しても課税の方針を示している。

 また、伊勢志摩サミット(主要国首脳会議、G7)や20カ国・地域(G20)首脳会議の声明にも規制が盛り込まれ、具体的な仕組みづくりと厳しい対応方針が示されている。

 国際社会が、このようなフリーライド(タダ乗り)や権利の乱用を許せば、損をするのは真面目に国民としての義務を果たしている人や企業となる。『正直者がばかを見ること』になり、モラルハザードによる社会崩壊が起きてしまう。

 権利と義務は表裏一体であり、権利を得るためには義務をきちんと果たす必要がある。これは差別や排他的であるという話ではなく、健全な社会と秩序をどのように守るかという話なのだと思う。

【プロフィル】渡辺哲也

 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は「突き破る日本経済」など多数。46歳。愛知県出身。