加速する北朝鮮の核開発 技術流出阻止へ「秘密特許」を
論風□知財評論家(元特許庁長官)荒井寿光
北朝鮮は、繰り返し弾道ミサイルの発射実験を行い、9月9日には核弾頭実験に成功したと発表し、世界に衝撃を与えている。
北朝鮮は、このような最先端の軍事技術をどう開発しているのだろうか。国際的な軍事技術動向に詳しい毎日新聞北米総局長の会川晴之氏は著書「核に魅入られた国家」で「北朝鮮の核、ミサイル技術が向上した背景は、…旧ソ連や中国などによる技術支援だけでなく、日本から技術や人材が流出したことにも行き当たる。…濃縮技術についても、北朝鮮は日本の技術を参考にしたと宣伝している」と書いている。
国際原子力機関(IAEA)の情報として、日本のレーザー濃縮技術が日本の特許公報により韓国に流れ、韓国はレーザー濃縮で77%の濃縮に成功したと、毎日新聞は報じている(2015年11月4日)が、北朝鮮も核開発のために、日本の同技術に関する特許公報を参考にしているものとみられている。
皮肉なことに、日本から知らないうちに技術が流出し、それが北朝鮮の軍事技術開発に役立ち、日本への脅威となって跳ね返ってきている。
◆甘い日本の情報管理
日本は一般に、外国に比べ技術情報管理が甘く、大事な技術が近隣諸国に流出し、日本企業の国際競争力を下げてきた。これではいけないと昨年やっと不正競争防止法が改正された。原子力や防衛技術に関しても、普通の技術ほどではないが、論文発表や特許出願が、かなり自由に行われている。
日本の特許は世界中からインターネットで特許庁の特許情報プラットホームに自由にアクセスし、すべて検索できる。機微技術に詳しいIAEAの八木雅浩氏の調査によれば、驚くことに日本のウラン濃縮技術、核開発技術、長距離ロケット関連技術の特許が748件も公開され、外国に流れている。
防衛省からは毎年かなりの特許が出願公開されている。民間企業からも、空対空戦闘訓練支援装置、ステルス船、後方目標用対空ミサイル、エアロスペース無人潜航体などの名称で、数多くの防衛技術の発明が詳細に公開されている。
北朝鮮の他、かなりの国が核やミサイル開発に力を入れており、国際的なテロ集団も軍事技術に関心があるといわれている。原子力やミサイル技術をはじめとする安全保障技術は日本だけでなく世界の平和に関係しており、結果として、これらの技術が日本から流出することは、国際責務に反する。
◆官民で体制整備を
日本では、原子力や防衛に関する技術開発は政府や政府機関だけでなく、民間企業が協力して進めている。しかし、論文発表や特許出願は研究者個人の判断に任されていることが多い。日本は早急にこれらの技術情報の管理状況を点検し、官民共同で総合的な管理体制を作り、対外発表の基準と承認手続きを定め、厳格に運用すべきだ。
特許は原則として技術情報が公開されるが、安全保障技術に関しては、「秘密特許」として公開されない国がほとんどだ。
日本では1885(明治18)年に最初の特許法が制定されたが、そこには秘密特許制度があり累計で1751件登録された。秘密特許制度は、第二次大戦後の1948年に廃止され、それから70年間、特に議論することもなく、廃止されたままになっている。
日本も外国と同じように秘密特許制度を導入する必要性が高まっている。秘密特許の方式には、特許の審査を凍結する方式(米、英、仏、韓)と特許を付与して公開しない方式(独、中、露、東欧)がある。日本がどちらの方式を採用するか早急に検討すべきだ。
日本が安全保障技術の情報管理を的確に行うことは、日本の防衛のみならず、世界の平和に貢献することにつながる。
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【プロフィル】荒井寿光
あらい・ひさみつ 東大法卒、ハーバード大大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知財戦略推進事務局長、世界工業所有権機関政策委員を歴任。退官後、日本初の「知財評論家」を名乗り知財立国推進に向けて活動。著書に「知財革命」「知財立国」。72歳。長野県出身。
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