子供たちへのプレゼントは台所から 柿澤一二美

講師のホンネ
柿澤一二美

 4人の子供たちと過ごした大切な時間。長女も24歳になり巣立ちを迎える。子育ては親育て。子供に教えられて、一番成長したのは“家族カウンセラー”の私ではないかと思う。

 ある日買い物から帰ると事件は起きていた。「あなたたち何をやっているの!」。台所は小麦粉や卵、調理器具が散乱し、何が起きたか分からなかった。「今日、母の日だからケーキをママにプレゼントしたくて。台所汚してごめんなさい」。目に涙を浮かべる子供たち。私は叱ってしまったことを後悔した。「ママのためにケーキを作ってくれたんだね。それなのに…。ほんとうにごめんなさい」。駆け寄る子供たちを抱きしめた。

 毎年2月に入ると子供たちの「そわそわ」が始まる。2月14日のバレンタインデー。本命チョコ、義理チョコ、友チョコ、逆チョコ、自己チョコ(自分へのご褒美)。10代の子供たちのバレンタインは、告白する日から感謝の気持ちを表す日に変わったように思う。

 バレンタインデー前の日曜日。チョコレートの甘い香りでわが家は満たされる。リビングのテーブルには100個を超す手作りチョコレート。「もう夜の0時過ぎているのにまだ終わらないの? 大変だったら買ったらいいのに、どうして手作りなの?」と私。「どうして手作りにしないの?」と子供。「仲良しの友達、先生にありがとうを伝える日なのに。まずは心をこめた手作り、気持ちでしょ。これママが言ったんだよ!」と言われて思い出した。

 独身時代に通ったブライダルスクールで、中華料理の榊淑子先生に教わった「料理の力」。最後の授業での話。「今日までよくお勉強されましたね。結婚前のみなさんに伝えたいこと。結婚したら旦那さまの胃袋をつかみなさい。ケンカをしても、夫婦の危機があっても胃袋さえつかんでいたら必ず旦那さまは戻ってくるからね」。私の両親の不仲の原因は料理だった。先生の言葉は心に響いた。

 「子供たちへのプレゼントは、台所から」。料理は自分も周りも幸せにできる。料理の心と技術をセットで身に付けることが大切。ご飯を炊く。みそ汁を作る。愛をかたちにできる方法を知っていると、「心も身体も」健康になる。

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【プロフィル】柿澤一二美

 かきざわ・ひふみ 1968年東京都生まれ。家族カウンセリング研究所代表、家族相談士・カウンセラー。幼少期に両親の不仲に悩んだ体験から、子供の悩みに特化した家族カウンセリングとサポートを行う。2男2女の母。4人の子育て経験と心理学のスキルを融合させた独自のノウハウを講演などで伝えている。