中国の新聞で騒がれた「単身老人駆逐策」の顛末 ノンフィクション作家・青樹明子
専欄10月半ば、中国の新聞にショッキングな見出しが躍った。「老人封殺」「単身老人駆逐策」「老人入店制限令」等々である。
事の顛末は以下の通り。
上海の人気大型家具店2階イートインコーナーに、こんな通達が出された。
「本日よりフードコートで食品を購入されたお客様に限り、椅子席をご利用いただきます」
この有名店では、店舗で何も買わずに椅子とテーブルを“占拠”する人たちがあまりに多く、正規の客が席を確保できない。占拠者の多くは中高年である。
冷暖房のきいた店内に、家から持ち込んだお茶と肉まんで、朝から晩まで居続ける。毎日通えば友達もでき、そこは無料の社交場と化していた。1000を超す椅子席のほとんどを、こういう中高年が占めたという。
なかでも問題視されたのが、フードコートを利用した「中高年見合い大会」である。毎週火曜と木曜、独身の中高年たちが集合し交流する。無料のコーヒーか、自前のお茶ですませば、参加費用はゼロである。
店側は困惑した。お金を払った客が席を確保できないので、店離れしていくからである。そこで「まずは店舗で購入し、その後椅子席に入ってくれ」という通達を出したのである。無料で1日過ごしていた高齢者は、「駆逐」されることになった。
中国では、中高年の居場所が実に少ない。「老人服務センター」はもちろんあるが、1日40元(約630円)の費用がかかり、年金暮らしには少々苦しい。無料で1日過ごせるフードコートは、高齢者の憩いの場だった。
しかし彼らは賢い。「上に政策あれば、下に対策あり」で、通達に従って、まずは店内で最も安い4元のパンを買う。椅子席を確保した後、実際に食べるのは、自前の肉まんと、そしてお茶だ。「パンは辻褄合わせだよ。最低いくら買え、とまでは言ってないからね」
さて、一般庶民の反応は賛否両論である。「店側の言い分はもっともだ。老人たちの行為は実に恥ずかしい」「高齢者は寂しい生活を強いられている。憩いの場を剥奪されたら、彼らは行く場所がない」
現代中国では、最も運の悪い世代が、今の中高年層である。若い頃は文革で辛酸をなめ、改革開放後はリストラの憂き目に遭う。年金はわずかで、子供たちは出稼ぎに行って、家では独りぼっちというケースも多い。
店側の言う当然の論理と高齢者の言い分。これを解決できるのは行政のみかもしれない。(ノンフィクション作家・青樹明子)
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