始まったトランプ氏の徹底調査

生かせ!知財ビジネス
知財界ノーマークのトランプ氏。知財政策へのスタンスはまったく見えてこない(AP)

 米大統領選でトランプ氏が勝利した。国内外の知財専門家に知財政策の見通しを聞いたが、結論は「現状ではまったく予想がつかない」というものだった。

 日本在住のある米国弁護士は「正直、知財政策に関しては未知数」と答えた。ニューヨークの法律事務所に勤める米国弁護士は「(トランプ氏勝利は)米国が前進した結果との見方もあるが、前進すればいいというものではない。子供たちにも悪影響だ」と憤慨した。

 トランプ氏勝利の背景には白人中産階級の怒りがあったとされる。グローバリズムが米国民のためではなく、グローバル企業のためにあったと批判したのが「アメリカンファースト」というトランプ氏のスローガンであり、当選後も強調している。半面、まさにグローバリズムの中で深化したのが知財であり、いまや企業がグローバル展開する上で欠かせないビジネスツールだ。その知財をトランプ氏は今後、どう扱っていくのか。

 「アメリカンファーストと保護主義、一国主義を結びつけながら、プロパテント(知財権重視)政策に出るとの観測が一部に出ているようだが、それほどシンプルな問題ではないだろう」と語るのは都内の弁理士だ。

 プロパテント政策とは米国で日米経済摩擦が問題となった1980年代、米国産業復活への導線として独占排他権である特許権など知財の活用力を強化した政策。まさにレーガン大統領からジョージ・H・W・ブッシュ大統領(父ブッシュ)に至る共和党政権時代に推進された。知財権でビジネスを守る裏には権利行使があり「特許売買や企業間訴訟は増加し、金目当てで訴訟を起こすパテントトロールがのさばり日本企業は狙い撃ちされてきた」(電機大手の元知財部幹部)という経緯もある。

 都内の国際知財コンサルタントは「いまはIoT(モノのインターネット化)、AI(人工知能)の時代。新たなグローバリズム、新たな知財戦略の時代だ。トランプ氏が、もしも80年代の発想でアメリカンファーストを唱えるなら、現在の複雑な知財環境を理解するには時間がかかるのではないか」と予想する。

 特許庁はトランプ氏をどう見るのか。ある幹部は「未知数。調査している」と言及を避けた。来年1月の就任式まで約2カ月。知財界でトランプ氏の徹底調査が始まっている。(知財情報&戦略システム 中岡浩)