埼玉工業大学 創立40周年を記念 変革に挑む

 

 ■「将来ビジョン」策定し新たな方向性

 ■「ものづくり研究センター」を拠点に 自然エネルギー開発で社会に貢献

 「テクノロジーとヒューマニティの融合と調和」という教育理念を掲げる埼玉工業大学(埼玉県深谷市)。「人間社会学部」と「工学部」の2学部5学科を有する私立工学系大学で、1976年4月に開学した。仏教精神、とりわけ法然上人の教えを建学の精神として、エンジニアや実務家など、社会の中核となって貢献できる人材を養成している。また、単なる実務教育にとどまらず、学生一人一人の「こころ」の涵養(かんよう)にも力を注ぎ、文化と科学の調和も図っている。創立40周年を迎えた同大は10日、記念式典と祝賀会を開催、来賓や学校関係者約400人が出席した。記念式典では同大の内山俊一学長が「埼玉工業大学将来ビジョン」も発表した。

 ■松川理事長「新しいことを求め続ける視点で」

 同大のルーツは、東京・浅草にあった東京商工学校。その後、聖橋学園に発展し、62年に聖橋工業高等専門学校として現在地に開学した。さまざまな状況によって窮状に陥り、創立者の松川文豪氏が73年に経営を引き継ぎ、学園名を「聖橋学園」から「智香寺学園」と改称。76年に四年制の私立単科大学として新たなスタートを切った。

 記念式典であいさつした同学園の松川聖業理事長は「松川文豪先生にとって、埼玉工業大学はまさに自分の信じた道を多くの人に伝える場。同時に科学の探求や技術の発展という知恵の実践にもなる。聖橋学園の救済と教育事業である社会貢献という慈悲の実現である」と、松川文豪氏の建学への思いを語った。

 また、同大が開学した当時と現在では、日本や世界を取り巻く状況が大きく変わっており、グローバル化の進展によって従来とは違う変革も求められていることから「とかくわれわれは、変わらないこと、現状維持を求めがちだが、それでは社会はよくならないし、自分自身も成長できない。他人がやらないことをする、あえて困難に立ち向かう、新しいことを求め続ける、そういう視点こそが自分自身の成長になる。埼玉工業大学は、そんなチャレンジ精神をもった人材、変わることを恐れない人材、新しい価値を世の中に提供できる人材、そういう人材を輩出していきたい」と話した。

 ■内山学長「オリジナル技術で企業とは違う貢献」

 式典では松川理事長に続き、深谷市の小島進市長ら来賓があいさつ。最後に内山学長が将来ビジョンを説明した。

 内山学長は「仏教を建学の精神としており、実社会で活躍する高倫理職業人の育成をしていきたい。また、中国の遼寧科技大学をはじめとする国際的な技術交流を通じて、技術革新にも貢献したい」と、21世紀時代に同大が目指す新たな方向性を示した。今後、研究・開発にさらに注力していく同大は、7月に開設した「ものづくり研究センター」を中核的研究開発拠点と位置づけて、環境に優しい自然エネルギーの開発を強化していくとともに、次世代自動車の開発プロジェクトにも取り組んでいく。「『ものづくり研究センター』で埼玉工業大学としてのオリジナルな技術を開発していく。企業とは違った形で技術革新に貢献したい」と、内山学長は力説した。

 これに伴い、教育研究組織も再編成。人間社会学部心理学科を「ビジネス心理専攻」と「臨床心理専攻」に、同学部情報社会学科も「経営システム専攻」と「メディア文化専攻」に改組した。また、工学部情報システム学科を「IT専攻」と「電気電子情報専攻」とした。その裏には、「これまで工学部でありながら、電気部門がなかった。電気工学分野をもちたい」(内山学長)との強い思いがあった。大学院工学研究科についても、学部学科との一体教育を観点から学科と同じ専攻名に変更。内山学長は「組織の再編成を通して、より一層、教育・研究にがんばっていきたい」との決意を表明した。

 埼玉工業大学が、将来に向けた研究・開発の拠点と位置づける「ものづくり研究センター」。学園創立110周年、大学創立40周年の記念事業の一つとして、今年7月に完成した。モノづくりの発信の場となるような総ガラス張りで開放的な空間を目指した施設で、Light(光)、Wind(風)、Earth(土)の3つの自然エネルギーを最大限生かしたECO研究センターだ。記念式典で同センターを説明した内山学長は「研究・開発に直結した形の大掛かりな施設は本学にとって初めて。新しい技術を世に出すためにも、『ものづくり研究センター』での研究をぜひ成功させたい」と力を込める。

 ■4本の樹状柱が互いに支え合い大樹に

 同センターは木造平屋建てで、4本の樹状柱が互いに支え合い大樹となって大屋根を支える建物構造で、「世界的にも非常に珍しい建屋となっている」(内山学長)。木材を使用することで、日本の伝統建築からモノづくりの原点をイメージさせる。

 正面入り口の両サイドにはガラスを挟み込んで外壁として利用可能な太陽光発電パネルが設置されており、研究・開発用の電力源として利用している。電動オペレーションによる自然換気システムのほか、建物外壁の一部や全面を二重ガラスで覆うダブルスキンを採用、耐震性にも優れている。内部は、中央にある展示スペースの周辺に「機械系」「化学系」「システム系」「多目的工作スペース」と4つのワークスペースを設置、ワークスペースを囲むように、4つの研究室が配置されている。

 現在、研究・開発で最も力を入れているのが新型電力貯蔵用電池だ。バナジウム系レドックスフロー電池設備を設置して、「太陽光発電からの電気を蓄電する技術を韓国企業などとの共同研究で進めている」(同)。蓄電池の研究・開発を担当している同大工学部の松浦宏昭准教授によると「バナジウムを利用したレドックスフロー電池は大型のシステムでは実用化されているが、中小型はコスト的に難しい」。しかし、工業大学として新しいエネルギー技術の創造という産業技術の発展に貢献するためにも、難しいバナジウムの中小型蓄電池の開発などで「環境に優しい自然エネルギー開発の埼工大」というキャッチフレーズの定着を目指している。バナジウム系の大型蓄電池では現在のコストが1ワット時あたり約78円。同大の研究では「中小型で1ワット時22円を目指している」(松浦准教授)。

 ■次世代自動車プロジェクトも始動

 一方、同センターの研究でもう一つの柱となるのが「次世代自動車プロジェクト」で、自動運転と次世代自動車の設計に重点を置いている。自動運転では改造した自動車の荷台にパソコンなどの機材を設置して、制御や情報の記録状況の分析など実施。画像センサー系ステレオカメラやレーザーレーダーなどを駆使して、操舵機能やブレーキ、アクセルを制御する技術開発を進めている。次世代自動車の設計は緒についたばかりで、今後、本格化させていく。「研究には学生も一緒に参加しており、新しい技術開発を通じて学生たちの能力を高めるとともに興味を引き出することにもつながる。教員が高いレベルの挑戦をしないと学生もついてこない」(内山学長)。

 同大ではさらなる飛躍に向けて、今後、東アジアにおける国際プロジェクトも推進していく計画だ。また、研究・開発の強化・拡充を軸に大学発ベンチャーも検討しており、内山学長は「蓄電池システムをはじめ研究・開発で得た技術を還元していく意味でも、できるだけ早い時期に大学発ベンチャーの設立をしていきたいと思っている」と話す。そのうえで「創立40年を迎えて、次の世代につながる発展をどのようにつくっていくかが求められている。そういう意味で、本学の取り組みを理解してもらってご支援をいただきたい」と語った。

 ■長寿命で高い安全性 レドックスフロー電池

 埼玉工業大学が研究・開発で力を入れている「レドックスフロー電池」は、電解液が電池セルと電解液タンクの間を循環する際に充電と放電を行うシステムで、電力貯蔵技術の一種。レドックスフローという名称は、Reduction(還元)とOxidation(酸化)、Flow(流れ)の短縮表現。同大の研究では、板状の塩ビセル40枚を1セットとしたスタックを3つ設置。太陽光や風力で発電した電気を蓄電する。正極と負極の活物質に価数の異なるバナジウムを用い、このバナジウムを希硫酸に溶かした正極液と負極液がそれぞれスタックと電解液タンクとを循環することで充放電する仕組み。電解液は半永久的に使用できるため長寿命なうえ、「エネルギー効率はニッケル水素電池やリチウムイオン電池よりも劣るが、難燃性、爆発性物質を使用しないため安全性が高いのが特徴」(同大工学部の松浦宏昭准教授)だ。スタックを3つ設置することで、太陽光や風力などの不安定な電力に対しても「制御システムによって電力情報を識別して、より効率よく受け入れられる」(同)。

 レドックスフロー電池は、日本では住友電気工業が2000年頃に大型の電力貯蔵用設備として発売。しかし、重量エネルギー密度がリチウムイオン電池の5分の1と低く小型化には向いていないとされているが、その小型化、低コスト化にはチャレンジする価値があり、埼玉工業大学の研究成果が待たれる。