COP22で感じた国連気候変動交渉の変質(2-1)

第26回地球環境大賞
竹内純子氏

 □21世紀政策研究所 研究副主幹 国際環境経済研究所 理事・主席研究員 竹内純子

 ■交渉の場から成果報告会、マッチングの場へ

 11月7日から18日までモロッコ・マラケシュで開催されたCOP22(国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議)。COP21という山場を越えた直後とあって、事前から言われていた通り、取り立てて大きな進展も目立つ展開もなかった。

 当初、COP22に期待されていたことは、パリ協定を機に醸成された前向きなモメンタム(勢い)を維持することと、今後のスケジュールを確定させることだった。予想をはるかに上回るスピードで各国の批准手続きが進み、会期前にパリ協定発効が確定したことを祝い、航空業界の自主的な排出量取引導入や海運分野での燃費報告制度導入などに象徴される前向きな流れを維持することが期待されていたのである。11月8日に行われた米国大統領選挙の結果が与える影響が懸念されたが、今回の交渉そのものには影響はなかった。参加者には動揺も見られたものの、今の段階では次期大統領に決まったトランプ氏がどのような政策を採るか推測の域を出ないこともあって、現実を直視できていないのではないかと思うほど、前向きな空気が保たれていたように感じた。

 もう1つ、具体的な成果として期待されたのは、パリ協定の詳細ルール(以下、ルールブック)に関する作業計画策定である。これは2018年のCOP24での採択を目指すことが決定した。17年にドイツ・ボンで開催されるCOP23(議長国はフィジー)で、その作業の進捗確認が行われる。

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 ■国際交渉を過度に偏重する時代は終わったのか?

 COP22がローキー(控えめ)だったことは想定通りであり、特に論評すべきものでもない。しかし、背景には国連気候変動交渉の変化・変質があることを踏まえる必要があるだろう。

 パリ協定は、各国が自国で決定した目標(貢献)を提出し、その達成のための努力をすることが根幹となっている。各国が提出した貢献の達成は法的義務ではない。5年ごとに実施される「グローバルストックテイク」で世界全体の進捗を把握し、各国は「貢献」を再提出する。

 今後、目標の評価やレビューのやり方などの運用ルールが議論されることになるが、それが策定されれば、後は国家間の交渉に委ねなければならない事項は基本的にはなくなる。以後、各国が自国の提出した目標を達成するためのエネルギー・ミックスをどう実現し、どう改善していくかという国内問題に取り組むことになる。COPは交渉の場ではなくなり、成果報告会、あるいは地方自治体や都市、産業界、NGOなど気候変動問題に関与する主体のマッチングの場となっていくだろう。それを見越してか、各国の古参の交渉官の顔触れも徐々に変わりつつある。

 わが国の温暖化目標は、これまで常に国連交渉を強く意識してきた。これは、民主党政権時代の「1990年比で2020年には▲25%」という目標も、パリ協定の下で提出した「2013年度比で30年度には▲26%」という目標も、その前提条件として、全ての主要国の参加による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築と、主要排出国がその能力に応じて意欲的に取り組むことを置いていたことからもうかがえる。

 トランプ氏の政策次第では前提条件が崩れることになるため、政府の見解が問われることになるだろうが、それ以前に、国際交渉を過度に偏重する時代はもう終わったことを意識する必要があるだろう。

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 ■日本がなすべきこと エネルギー・ミックス達成に向けて

 その上で日本がしなければならないことは、提出した貢献の前提となっているエネルギー・ミックスの実現に向けて着実に努力することだ。

 わが国のエネルギー・ミックスは、省エネによる需要抑制とコスト効果の高い再生可能エネルギーの導入、自由化の下での火力発電の中での配分達成など、それぞれに課題を抱えている。その中で最も不透明性が高いのは原子力だろう。原子力については福島事故のコストが膨らんでいることが報じられている。ミックス策定の前提となったコストの算定では事故や廃炉費用が1兆円増えるごとの感度分析も行われているが、コスト負担のあり方を含めて、政府が丁寧に国民に説明責任を果たしていくこと、その上でエネルギー安定供給・安全保障・CO2排出削減という意義も含めた原子力の必要性について国民の理解を得る努力が望まれる。