トランプ米大統領の中東政策 親イスラエル、反イランが鮮明

高論卓説

 トランプ米大統領のこれまでの国際関係の発言をみると、ロシアに優しく中国に厳しい姿勢が最大の特徴である。では中東はどうかとみれば、親イスラエル、反イランの色彩が鮮明だ。

 実際、トランプ大統領が親イスラエルであることを示すように、ホワイトハウスの顔である新報道官に起用されたショーン・スパイサー氏は就任式前日の19日の記者会見で「トランプ氏はイスラエルが値するにふさわしい尊厳を得ていないと明らかにしてきた」と述べ、新大統領がイスラエルとの関係修復に乗り出す考えを示唆した。

 他方、イランについてトランプ大統領は就任5日前の15日、英タイムズ紙とのインタビューで「イラン核合意は今までに見た最もばかげた取引の一つ」と酷評している。

 トランプ大統領のイスラエル政策で最も注目されるのは、選挙期間中の発言通り米大使館をテルアビブからエルサレムに移すのかどうかである。

 仮に移せば、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の信徒を巻き込む新たな宗教紛争に発展することは必至だ。また国民の大半がイスラム教徒である親米アラブ国家、サウジアラビアやヨルダン、エジプトなども米国と距離を取らざるを得なくなる。そうなればイランを封じ込めるべく、穏健アラブ諸国との関係改善を模索してきたイスラエルの努力も水泡に帰す。

 さらに、大使館移転は総じて敬虔(けいけん)なイスラム教徒の多い中東、アラブ、イスラム諸国の反米感情を高め、イスラム過激派によるテロを拡大するだろう。米大使館のエルサレム移転は、イスラエルとしても冷静に考えれば多くのマイナス反応が見込めるだけに、慎重に検討すべき課題であることが分かる。

 果たしてトランプ大統領が、米上下両院によって1995年に可決された米大使館移転法案に関して判断を求められる6月までにいかなる決定を下すのか注目される。

 トランプ大統領の選挙キャンペーン時の今一つの発言が、イラン核合意の破棄である。しかし、同合意は国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランによるものである。米国のみの合意ではなく、単独での破棄はできない仕組みとなっている。

 破棄するには、合意署名した英仏独露中や後日、決議案として採択した国連安保理に破棄を要請したり、あるいは再交渉を呼び掛けたりする必要がある。だが、その実現の可能性はまずない。

 そうであるとすれば、恐らくトランプ新政権が目指すのはイラン核合意自体には手を触れず、核合意の成果をイランが享受できないような方法を積み重ね、イランに圧力をかけることである。

 米国独自のイラン制裁が残っていることから、手始めに考えられるのは今でも実現しにくい欧米などの銀行とイランの銀行との取引にますますにらみをきかせ、成立を徹底的に阻むことである。

 これと並行して進めるのが、イランの弾道ミサイル発射実験や人権侵害、湾岸での米艦船への妨害行為などの機会を捉えて、可能であれば国連安保理での新制裁、それが無理であれば米国単独での新制裁を導入しイランの手足を縛ることである。

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱の大統領令に署名するなど有言実行の姿勢を見せるトランプ大統領だけに、イスラエル、イラン政策が注目される。

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【プロフィル】畑中美樹

 はたなか・よしき 慶大経済卒。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、一般財団法人国際開発センターエネルギー・環境室長などを経て、現在、同室研究顧問。66歳。東京都出身。