大手損保が中堅企業向け本格的「IP保険」

生かせ!知財ビジネス

 ある大手損害保険が、わが国初の本格的な「知財賠償責任保険(IP Insurance)」を開発。既存の損保代理店に加え銀行系保険代理店などを通じて、本格的な販売に乗り出す準備を進めている。

 契約対象は、売上高10億円から1000億円程度でエンターテインメントとメディア関連を除く国内中堅企業。補償の対象は第三者の知財権を侵害し訴えられた場合の訴訟費用と賠償金の他、侵害品などの回収費用や先制訴訟費用、応訴費用、コンサルティング費用などだ。保険金額は最高1000万ドル(約11億4000万円)と大きい。米国では1億円を超える訴訟費用や賠償金は普通にある。保険適用地域は知財訴訟の多い米国をはじめ全世界で、保険料は引受責任額の2~5%程度となっている。

 知財賠償責任保険は技術開発競争や特許獲得競争が激しい産業分野や知財紛争が多発する国で活動する企業の事業リスク対処策の一つ。専門知識や予算が乏しい中堅以下の企業では特に重要になる。しかし、被保険者となる企業の技術・知財評価や訴訟発生予測は難しい。特許庁が中小企業支援の一環で昨年始めた海外知財訴訟保険事業での支払限度額は500万円にとどまっていた。

 今回、大手損保は知財賠償責任保険に約10年の実績がある英国企業と提携し、実施ノウハウや統計データを導入するだけでなく、保険引受リスクの約半分を分担してもらうことで商品化にこぎつけた。

 商品開発担当者は「新分野は市場をつくるまでが大変だが、一気に普及することもある。やや保守的な目標だが、2017年度は年間保険料として平均1000万円の契約を20件、5年間で年間保険料収入20億円の規模に成長できれば」と静かに意欲を燃やしている。

 商品化に協力している国際特許事務所の幹部は「訴えられるのは企業が一流になってきた証拠。これを乗り越えなければ先はない。そういう意味では、知財賠償責任保険は日本から次世代の知財企業を排出する孵卵(ふらん)器のような役割も持っていると言えよう」と説明する。

 一方、大手損保出身の弁理士は「引き合いは多いはず。中堅企業は多額の費用をかけて海外出願をしている。費用対効果から営業秘密化による秘匿と知財賠償責任保険を組み合わせた戦略をとるようになる可能性もある」と分析している。(知財情報&戦略システム 中岡浩)