豊洲「百条委」 責任追及だけでいいのか
社説で経済を読む□産経新聞客員論説委員・五十嵐徹
築地市場の豊洲移転問題について、東京都議会が百条委員会を設置した。
地方自治法100条に基づく委員会には、強い調査権限がある。証人喚問や記録の提出を要求できる。正当な理由なく出頭を拒んだり、虚偽の証言をしたりすれば、禁錮や罰金が科される。
都が用地を取得した当時の知事である石原慎太郎氏ら、土地の所有者だった東京ガスを含め、移転事業の関係者が証人として喚問される見通しだ。
なぜ土壌が汚染された工場跡地を移転先に選んだのか、汚染対策費の多くを都が負担した経緯は何かなど、この問題では多くの都民、国民が疑問を抱いている。その意味で百条委への期待は大きいだろう。
石原氏は3日午後、日本記者クラブ(東京都千代田区)で、「喚問まで待てない」と記者会見し、豊洲移転は「当時の最高責任者として承諾した。責任は認める」と述べた。その一方、「やるべきことやらずに、ほったらかしにしている責任は今の小池(百合子)知事にある」とも述べた。
気になるのは、百条委設置の背景から、7月に投開票される都議会選挙を意識した政治的な思惑が強く臭ってくることだ。
政治ショーを懸念
産経は百条委の設置決定に先立つ2月19日付の主張(社説)で、「小池知事と石原氏らとの政治的な対立の構図」に触れ、「都議選向けにパフォーマンスが目的のような追及劇を演じ、事実を突き止められないような事態は避けねばならない」とくぎを刺している。
朝日も2月27日付社説で、「百条委は都議のパフォーマンスの舞台ではない」と強調。「『なぜ豊洲に決めたのか』という問いが向けられる先には、計画を認めた都議会も含まれる。その自覚なしに、勢いに乗る小池知事と共同歩調をとることを競う姿を見せられても、都民は鼻白むばかりだ」と議会の責任も厳しく問う姿勢を見せた。正論だ。
議会の責任逃れを問題視するのは毎日も同じだ。2月23日付社説で、「都議会は百条委員会の目的が石原氏への追及だけに終始することがないよう、留意する必要がある」と述べ、石原氏一人に責任を押し付けて幕引きを図ろうとする動きを強く牽制(けんせい)した。
「築地市場の移転は30年前から曲折を経ながら進められてきた。都が豊洲への移転を決めて以降でも16年が過ぎた」と冷静に事実関係を振り返ったのは日経だ。
2月23日付社説で、「豊洲の検証に何が必要か」の見出しを掲げ、百条委に求められる論点を整理。「都は当初、現在地での再整備に着手したが、営業活動を続けながらの工事は難航し、他地区への移転へ方針を転換した経緯がある。市場関係者の間でも当時、築地に近く、広い用地を確保できる豊洲への移転を求める声があった」と指摘した。
さらに、「東京ガスは2007年までに約100億円をかけて都の条例に基づいて土壌改良をしている。それでもその後の調査で有害物質が検出され、都が自ら大規模な対策に乗り出して、現在に至っている」と押さえておくべき経緯にもしっかりと触れている。
「30年という時間軸に沿って、丁寧に事実を確認しながら審議しないと、単なる政治ショーに終わるだろう。過去の検証は必要とはいえ、本当に重要なのは3月に明らかになる豊洲市場の地下水の再調査の結果と、それを踏まえた小池知事の判断である」という指摘は改めて肝に銘じておきたい。
政治資金の私的流用で辞任した舛添要一前知事の後を受けて小池都政が発足して半年が過ぎた。2月の千代田区長選をトリプルスコアで制するなど向かうところ敵なしの小池人気だが、この間、都民が豊洲移転問題で見せつけられたのは新市場の不安材料ばかりだ。
五輪準備に影響も
移転延期に伴う補償費の増大はやむを得ないにせよ、肝心の移転時期が一向に定まらない。このままでは6000億円近い巨費を投じた移転計画自体が宙に浮きかねない。
小池都政のもう一つのビッグプロジェクトである20年東京五輪・パラリンピックの準備の遅れも気がかりだ。
2兆円は下らないとみられる開催費用の負担問題も東京都と国、五輪組織委の間で話し合いは容易に進まない。費用負担をめぐっては、一部競技について開催を引き受けた周辺自治体とも対立している。
さすがの小池氏も「いざとなれば国が何とかする」とは思っていないだろうが、このままでは、せっかくの五輪開催ムードまでしぼんでしまいかねない。
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