「無法地帯」と化した京都“花見狂騒曲” 観光客がマナー守らず夜桜ライトアップ中止に
古都・京都らしい風情の中で桜が楽しめるとして人気のスポット「祇園白川」(京都市東山区)で今春、27年間続けられてきた夜桜観賞の恒例行事「祇園白川さくらライトアップ」が中止になった。背景には、外国人を中心とする観光客の急増に伴う安全面やマナー違反への懸念があるようだ。昨秋には紅葉の名所として知られる東福寺(同区)で同様に、境内の一部を撮影禁止とするなどの対策が講じられた。観光客の増加は京都や関西にとって喜ばしいが、負の側面もある。
道の真ん中で「2人の世界」に浸る中国人新婚夫婦
「ファンタスティック!」「真美(ジェンメイ=本当に美しい)!」
4月上旬のある昼下がり。祇園白川には、川沿いで一斉に開いたソメイヨシノやシダレザクラを一目見ようと、多くの観光客が訪れていた。外国人観光客にも人気のスポットで、英語や中国語などさまざまな言語が飛び交う。
白川の澄んだせせらぎ沿いに続く石畳の道に、お茶屋や町家が連なり、桜が咲いている。
そんな情緒たっぷりの場所なのだが、なぜか、純白のウエディングドレスとタキシードに身を包んだカップルがいた。しかも一組ではない。30メートルほどの間隔であちこちにいる。
道行く人や車にもお構いなしで、完全に「2人の世界」に入って見つめ合う男女。よく見ると、そんな2人をカメラマンが撮影している。どうやら結婚写真の「前撮り」のようだ。
「日本の桜は美しい。中国にはない景色だ。この場所は中国でも話題になってるよ」
話を聞くと、中国から訪れた新婚夫婦で、やはり「前撮り」目的だという。
「ここは日本じゃない」
自分たちの世界に入り、周りが見えなくなっていたのは、こうしたカップルだけではない。
団体ツアーらしき欧米人らの一行。一眼レフカメラで桜の撮影に夢中で、きれいに手入れされた植え込みに足を突っ込んでいることに気がついていない。
カメラを構えるため、手に持っていた飲料の缶やごみをその辺に置き、そのまま忘れて立ち去る人もいる。白川にかかる巽橋では、立ち止まって撮影する人たちが滞留し、渡ることもままならない。
「無法地帯だな」。ある日本人観光客がぽつりとつぶやくと、夫婦で観光に訪れたという名古屋市の女性(31)は「海外にいるような感覚になる。ここは日本じゃない気がしてきた」と苦笑いした。
日が傾き始めても人波が途絶えることはない。
「プップー!」
けたたましい車のクラクションとともに、道の真ん中で桜を眺めていた女性が慌てて路肩に寄った。だが、車が通りすぎると、また観光客らは道に広がり始める。
こうした中には日本人の観光客も、もちろんいる。タクシー運転手の男性(60)は「まるで歩行者天国のようだ」とあきらめ顔だ。
春の風物詩、事故の恐れも
「こんないい場所で、何でライトアップをやらないんだろう」。巽橋からスマートフォンで桜を撮影していた日本人男性が知人に尋ねていた。やらないのではなくて中止に追い込まれていたのだった。
祇園白川一帯では、京都市が平成2年から、白川南通り(川端通り~辰巳神社)沿いの約220メートルで桜約40本の夜間ライトアップを始めた。
18年以降は地元住民の有志団体「祇園白川ライトアップ実行委員会」が、京都商工会議所などの助成を受け、毎年3月末から4月初旬にかけて約10日間のライトアップを実施してきた。
実行委によると、この期間は昼間も含めると約30万人の花見客が訪れていたといい、ライトアップは春の風物詩として定着。期間中、白川南通りは車両通行止めにもなっていた。
だが近年、観光客の急増とともに雲行きが怪しくなった。安全面が懸念されるような出来事が次々と起こったのだ。
道路を横切る花見客と車両が接触しそうになったり、撮影に夢中になった花見客が橋から川に落下したり…。祇園白川にある老舗旅館では、私設の橋に無断侵入して撮影する人々がいるため、来店客の妨げになるとして日本語や英語、中国語などで立ち入り禁止を促す注意書きを設置するようになった。
警備に限界、苦渋の決断
警察には苦情が寄せられており、京都府警東山署によると、昨年のライトアップ期間中、「桜の木が折られている」との通報もあった。
実行委はこうした事態を受け、予期せぬ事故の恐れもある中で十分な対策を取ることが難しいと判断し、ライトアップを中止した。
祇園白川ライトアップ実行委員会で世話人を務める秋山敏郎さん(70)は「今のような状態であれば警備員を増やさなければ対応できないが、多額の費用が必要となる。もし事故が起きても実行委だけでは責任がとれない」と話す。
ライトアップの中止は、地域経済にマイナスとなりかねない。心配する声も多いのかと思いきや、そうでもないようだ。
巽橋付近の飲食店主(38)は「花見客は桜を見ていくだけで店に寄ってくれることはあまりない。一番困っているのは、水だけ飲みに来たり、トイレだけ使っていったりする外国人観光客がいること」と指摘。別の女性店員(42)は「マナー違反の観光客が目立つ。ライトアップ中止は仕方ないと思っている関係者は多いのでは」と打ち明ける。
昨年の紅葉シーズンに境内の絶景スポット「通天橋」「臥雲橋」での撮影を禁止した東福寺では、近年、撮影のために立ち止まる人が増え、行列が動かなくなることもあったといい、事故防止と混雑緩和のため撮影禁止に踏み切った。
観光地の風情や安全が失われ、それとともに鑑賞の機会も失われる。こんなことは今後も繰り返されるのだろうか。
秋本さんは「27年間続けてきたライトアップを中止したのは残念」としながらも、来年以降も開催しないかどうかは未定だとして、こう期待を寄せる。
「この中止をきっかけに、改めてライトアップが重要な行事であると認識され、みんなで安全やマナーについて考える機会になってほしい」
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