ベンチャー企業ができる“触媒”を 「国分寺隕石」から30年 人工衛星へ息づく宇宙への夢 香川

 
高松市こども未来館に展示されている「国分寺隕石」

 大音響とともに多くの石が香川県国分寺町(現・高松市国分寺町)に落下した「国分寺隕石(いんせき)」から30年が経つ。隕石が大気圏突入の衝撃で砕けることで起き、雨のように降る「隕石シャワー」が日本で確認されたのは77年ぶりのことだった。隕石フィーバーは冷めたが、今も脈々と息づいているものがある。「香川から宇宙飛行士を出そう」という取り組みから前進した“大人版”の活動が新たに始動した。(山田昭二)

 隕石の町に分団

 当時の状況をまとめた報告書がある。現地での取材と編集は香川県教委から国分寺町教委に派遣されて社会教育主事を務めていた岡内尊重さん(78)が担当した。

 「隕石を宇宙からの“お嫁さん”と考えました。宇宙と国分寺町は親戚(しんせき)になった」との表現で振り返る。隕石の古里は太陽系の土星と火星の軌道の間の小惑星帯。しかも地球と同じ46億年前に生まれた。岡内さんはスケール感に圧倒されながらも宇宙を身近に感じ、隕石に興味を持った。

 町は国分寺中学校に天体ドームを作った。“隕石の町”として天文学者らが育ってほしいという願いを込めたようだ。その思いを実現しようと、小学校校長で定年退職した岡内さんは平成13年に日本宇宙少年団香川小惑星分団を設立した。

 子供たちの科学への探求心を育み、香川から宇宙飛行士を出すのを目標に講演会などを開いてきた。分団OBから太陽系外惑星を研究する大学院生や人工衛星に取り組む大学生らが出てきている。目標到達度は「現段階で55%」という。

 分団の大人版設立

 分団の“大人版”ともいえる「かがわ宇宙教育推進協議会」(会長・伊藤寛香川大名誉教授)が昨年8月に立ち上がった。香川で芽生えつつあった人工衛星づくりの火を何かの形で燃やし続けるためだった。

 宇宙に興味を持つ大人たちのネットワーク形成を目指す。岡内さんは「ベンチャー企業ができる“触媒”になるようなものをやりたい。これから1年で、宇宙に関する広範囲な分野の中から活動を決めたい。核となるものとして人工衛星が頭にある」と力を込める。

 宇宙が誕生して138億年。星や銀河が生まれ、やがて生命が誕生した。「宇宙は私たちの源」と意味付ける岡内さん。隕石との出合いによって自らの人生が思わぬ展開となり、今も続いている。

 ■国分寺隕石 落下したのは昭和61年7月29日午後7時ごろ。香川県国分寺町から坂出市の一部にかけて100個以上になって落下した。13地点で13個が採取され、最も大きいものは重さが10キロあった。人的被害はなかった。石質の球粒隕石だった。