悲哀と自虐、句に重ね30年 「サラ川」今年はゆとりVSバブル
「ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?」-。第一生命保険は22日、「第30回サラリーマン川柳コンクール」の全国投票結果を発表した。「サラ川」の募集が始まった1987年当時、日本はバブル景気のまっただ中にあった。今年の第1位にはくしくも、バブル期に社会人になった世代と今の若い世代のギャップを詠んだ作品が選ばれた。
作品応募数は今回、5万5067件と20年ぶりに5万句を突破した。上司と部下のぶつかり合いはサラ川の定番だ。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは「新社会人になった時期の社会環境が価値観に影響を与え、それが川柳に詠まれたことは興味深い」と指摘する。
サラ川はもともと第一生命の社内向け企画として産声をあげた。応募は累計110万件を突破。上・中・下の句を少しずつ変えて、毎年何十句も応募するマニアも現れた。
節目の今年、第一生命経済研究所がサラ川の30年を5つの時代に区切り、応募作品の傾向を分析した。5・7・5の17文字から、日本経済の動きをひもといた。
1980年代後半~90年代初頭は日経平均株価が4万円に迫るなど、「バブル景気」に沸いた。栄養ドリンク剤のキャッチコピー「24時間タタカエマスカ」が象徴するように、日本人はがむしゃらに働いた。「『オヤジギャル』など、元気な女性を取り上げた句もあった」(藤代氏)。
ブランドは 見るもの聞くもの 貰うもの
続く90年代前半、日本を「バブル崩壊」が襲った。「投資の失敗や不景気を嘆く句が多く、後悔、諦め、自虐がにじむ傾向があった」(藤代氏)。終身雇用と年功序列のルールが崩れ始め、サラリーマンには厳しい時代だった。
夢さめて 株式欄を 避けて読む
90年代後半~2000年代前半は外食や流通業界で「価格破壊」が起きた「デフレ経済」の時代。消費税率5%への引き上げなどで日本経済は苦境に立たされた。携帯電話とパソコンが欠かせない仕事道具となり、業務効率化に向け「IT革命への期待も高まった」(藤代氏)。
ノー残業 お持ち帰りで フル残業
2000年代半ば~12年は「金融危機前後」。日銀が量的緩和とゼロ金利政策の解除に踏み切った後、リーマン・ショックの余波で日本は再び景気後退に入る。「サラリーマンの開き直りを感じる句が多かった」(藤代氏)。
「デフレなの」 小遣い減らし 妻ニヤリ
最後は13年に始動した「アベノミクス」の時代。企業業績は過去最高水準に達し、失業率は低下するなど、日本経済の復活が意識されるようになった。ただ、「給与や小遣いが追いつかず、不安や嘆きが多く詠まれた」(藤代氏)。
小遣いの 異次元緩和 未だなし
国内は大規模金融緩和を背景に、雇用が逼迫(ひっぱく)し、不動産市場の一部に過熱感が出るなど、バブルの兆候が指摘されている。海外でも、トランプ米政権の動向や北朝鮮情勢をめぐり緊張が続く。サラリーマンを取り囲む環境は引き続き攪乱(かくらん)要因が多そうだ。(米沢文)
■第30回「サラ川」全国投票結果(順位/作品/得票)
1/ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?/5822
2/久しぶり! 聞くに聞けない 君の名は/4570
3/ありのまま スッピンみせたら 君の名は?/3472
4/同窓会 みんなニコニコ 名前出ず/2715
5/「パパお風呂」 入れじゃなくて 掃除しろ/2664
6/君の名は ゆとり世代の 名が読めず/2473
7/病院で サミットしている 爺7/2381
8/ばあちゃんが オシャレにキメる 通院日/2298
9/オレのボス ヤフーでググれと 無理を言う/2242
10/職場でも 家でもおれは ペコ太郎/2157
◇
■この30年でサラリーマンの悩みはどう変わった?(時代/作品)
バブル景気/一戸建 手が出る土地は 熊も出る
ビジネスマン 24時間 寝てみたい
ブランドは 見るもの聞くもの 貰うもの
バブル崩壊/夢さめて 株式欄を 避けて読む
御取り引き バブルはじけて お引き取り
十二支が 「ねーリストラ」に 聞えたり
デフレ経済/ビックバン 俺の財布の 割れる音?
接待費 削られ上司 健康に
ノー残業 お持ち帰りで フル残業
金融危機前後/一〇〇年に 一度の不況が 五年毎
「デフレなの」 小遣い減らし 妻ニヤリ
オレの指 スマホも部下も 動かせず
アベノミクス/オレの部下 半沢みたいな 奴ばかり
小遣いの 異次元緩和 未だなし
退職金 もらった瞬間 妻ドローン
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