「第四次産業革命」に向けて 製造業の知財戦略 技術流出制限
高論卓説今月、経済産業省が「第四次産業革命に対応する研究開発戦略構築へ」と称して、注目分野の特許出願技術動向調査の結果を発表した。この第四次産業革命はまだ起きていないものの、近い未来起きるといわれている。「Japan is No.1」といわれた日本の製造業は、東芝を代表に今や世界では取り残されようとしており、この第四次産業革命の波には何としてでも乗らなければならない。
第四次産業革命に対応したビジネスモデルは、いくつかあるが、本質はセンシングデバイスにより集めた情報をビッグデータ化し、このビッグデータを人工知能(AI)によって分析し、フィードバックするということにあると思われる。
製造プロセスにおいても単に自動化するだけではなく、故障予知やオーダーメード化などが可能となる。サービス業も従来、人の経験や勘に頼っていたマーケティングがより高精度に行うことができるようになる。
要するに、効率の良い無駄のない社会を実現することが可能になるということである。日本が世界で生き残っていくためには、日本の製造業者全てがこの第四次産業革命を意識して事業を進めていく必要がある。製造業者にとってみれば、いきなり「モノのインターネット(IoT)」やAIといわれてもピンとこないかもしれない。時間とコストをかければIoTやAIを事業に取り込むことは可能かもしれないが非効率である。
そこで、時間とコストを短縮するために「オープンイノベーション」の必要性が叫ばれている。オープンイノベーションとは社内の技術と社外の技術を融合させることだ。大企業が主導するオープンイノベーションに関する取り組みは多く、「ハッカソン」や「アクセラレータ」というキーワードでグーグル検索するとよく分かるはずだ。
ところが、このオープンイノベーションは、社内の技術を他社に開示する、他社の技術を利用するということであるから、必然的に特許など知的財産の問題が付随する。特許とは、他社に自社の技術が利用されることを排除する権利であるから、オープンイノベーションと矛盾することは想像に難くない。例えば、大企業とスタートアップ企業が組んでオープンイノベーションを実施したとする。このとき大企業に特許を取られてしまった場合、スタートアップ企業はどうなるのだろうか。
答えをいうと、特許を取られたスタートアップ企業はオープンイノベーションにより創生した技術、ビジネスを自社単独では実施できなくなる。これは、単にスタートアップ企業から大企業に対して技術流出が起きているだけで、日本の未来にとって良くないのは明白である。
オープンイノベーションを始める前の契約交渉が極めて重要で、目先の利益だけを考えた契約交渉では駄目だ。スタートアップ企業からは交渉に専門家を雇えないという声をよく聞くが、そこにコストをかけないとスタートアップ企業も生き残っていけない。技術があって有望といわれるスタートアップ企業でも、その肝心の技術が流出してしまっては意味がない。
少し話がそれてしまったが、オープンイノベーションにおける知財戦略というのは「技術流出の制限」に尽きるのである。その「技術流出」にもさまざまなパターンがあるため、そのパターンに応じた制限策を考えなければならないということになる。このあたりの各論については改めて論じることとしたい。
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【プロフィル】溝田宗司
みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年1月、溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。40歳。大阪府出身。
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