カンボジア地方選 「不満の受け皿」野党が大躍進 与党勝利も後退
カンボジアで4日、5年に1度の地方選挙が投開票された。中央選挙管理委員会による公式発表はまだだが、中央選管による速報や地元メディアの報道によると、フン・セン首相が率いる与党・カンボジア人民党が71%の行政区・地区(コミューン)で第一党となり「勝利」はしたものの、前回2012年の97%からは大幅に勢力を減らした。逆に、最大野党のカンボジア救国党は29%のコミューンで第一党となり躍進を遂げた。
◆首相の地元で圧倒
毎年7%の安定的な経済成長率を続けるカンボジアだが、その要因の一つとして、フン・セン首相の長期政権が支える政治的な安定がある。外国企業に大幅な優遇措置を提供するなどして、外国直接投資を経済成長の軸としているだけに、18年7月の国民議会選挙(国政選挙)の前哨戦と位置付けられた地方選は、国内外で注目された。
カンボジアの地方選挙は、全国1646カ所のコミューンの評議会議員1万人以上を、政党比例代表制で選ぶ。与党・人民党、最大野党・救国党を含む12政党が選挙に参加した。
今回の地方選でまず注目すべきは、投票率の高さだ。地元メディアの報道などによると、投票率は89.5%。前回12年の地方選の65%から大きく伸びた。なかでもプノンペン都は92.8%を記録しており、有権者の関心がひときわ高かったことがうかがえる。
選挙戦も、地方選としては異例の規模だった。選挙運動は5月20日から6月2日まで行われたが、最終日には人民党党首としてフン・セン首相が姿を見せた。地方選の選挙運動に首相自らが登場することはほとんどなく、「それだけ人民党が危機感を抱いていた」との見方もある。
白熱した選挙戦の結果は、人民党が懸念した通りになった。現地紙プノンペン・ポストが中央選管の中間速報をまとめたところによると、1646コミューンのうち人民党は1163カ所で第一党、救国党は482カ所で第一党となった。現在、中央選管が不服申し立てを受けて一部のコミューンで再集計をしているが、大勢は変わらないものとみられている。
前回12年の地方選時には救国党はまだサム・レンシー党と人権党が合流する前だったが、2党を合わせても第一党となったコミューンは三十数カ所にすぎず、10倍以上の躍進となった。
なかでも与党に衝撃が走ったのは、フン・セン首相のお膝元であるコンポンチャム州で野党に負けたことだ。同州は、救国党のケム・ソカー党首の地盤でもある。同州のコミューン数は109。このうち人民党は35、救国党は74カ所で第一党となった。前回、野党勢力がわずか12カ所でしか勝てなかったことに比べると、野党側の集中した選挙運動が功を奏したとみることができる。
◆SNS普及も寄与
首都プノンペンでも野党が勝利した。プノンペンのコミューン数は105。このうち人民党は48、救国党は57カ所で第一党となった。前回は96コミューンのすべてで与党が勝利し、野党勢力は全敗した。首都と並んで急速な経済成長を遂げるシエムレアプ州でも同様の傾向があり、100カ所のコミューンのうち人民党は48、救国党は52カ所を押さえた。前回は98対2で与党側の圧勝だった州だ。
12年の前回地方選と、今回の選挙が大きな違いを生んだ要因の一つは、13年に実施された国民議会選挙だ。この国政選挙で人民党は、想定外の野党躍進に苦しめられた。現在は、国内で訴追されているため帰国できないサム・レンシー党首(当時)が率いた救国党は、123議席のうち55議席を獲得。人民党の68議席には及ばなかったが、前回選挙時より26議席も増やした。
この国政選挙を境に、国民の意識に変化が起きたようにみえる。経済発展とともに色濃くなる成長の影として、貧富の格差や労働環境の悪化が大きな社会問題となってきた。政治家や公務員の不正に「不公平感」を持つ人も多く、その不満の受け皿として野党が支持を広げた。若者を中心に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを利用して「野党支持」を表明することが、これまでより容易になったことも大きい。
一方で救国党は、13年の国民議会選挙以降、党首の訴追や副党首の女性スキャンダルなどに見舞われ、改革の実績を国民に示せていないのが実情だ。それでも今回の地方選挙で野党勢力が明らかに拡大したのは、与党への不満や変化を求める気持ちが強い証しだろう。
今後、18年1月には今回の地方選で選出されたコミューン評議員や国会議員による間接選挙で、上院議員選挙が実施される。そして同年7月には国民議会選挙が行われる。国民の高い関心を維持したまま、さらなる変化が起きるのか注目される。(カンボジア月刊邦字誌 「プノン」編集長 木村文)
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