自動車リサイクル 再資源化率99%を達成
使用済み自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)は制定から15年、施行から12年を迎えた。破砕くず(シュレッダーダスト)やフロン冷媒などの特定品目のリサイクルが徹底して行われるようになり、現在、リサイクル率は重量ベースで99%を達成しているという。日本の自動車リサイクルの仕組みは行政、産業界、消費者が一体となった取り組みに支えられ、進展してきた。無駄を富に変える取り組みをさらに加速させるために、とくに消費者の役割が重要になってきている。
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■法整備から15年、役割増すユーザー参加
わくわくした心持ちで新車を購入する消費者。ディーラーの説明にも上の空になりがちだが、示される見積書の中には自動車のリサイクル費用が掲載されている。車検証や取扱説明書のファイルには、必ずリサイクル券も付属されている。自動車の所有者になった瞬間から、リサイクルシステムの一員として、役割を担う。
日本の自動車リサイクルの仕組みでは、所有者は費用を負担し、使用済み車両を引き取り業者に引き渡す役割を担う。リサイクル処理の責任は自動車メーカー・輸入業者に課されている。新車購入時に普通乗用車で1万6000円前後が徴収される。徴収された資金は、公益財団法人の自動車リサイクル促進センターが管理し、リサイクル処理を終えたメーカーなどの請求に応じて費用が支払われる仕組みだ。
使用済み自動車は有価物として取引される鋼板、電気系統の配線類(ハーネス)の銅線などを多く含んでいるため、自動車解体処理は採算の合う事業として定着してきた。処理が難しいのはカーエアコン用のフロン類を含む冷媒、火薬を使用したエアバッグ、プラスチックなどを含むシュレッダーダスト(ASR)の3品目で「特定品目」とも呼ばれる。徴収されたリサイクル料金の多くが、特定品目の回収・運搬、リサイクル費用として使用される。
■次世代の産業システムのモデルに
自動車リサイクル法の制度では、廃自動車を引き取る業者、フロン類回収業者、解体業者(エアバッグ回収)、破砕業者をそれぞれ都道府県知事が指定。回収した資材を自動車メーカー、輸入業者、指定再資源化機関に集め、徹底したリサイクル、最終処分が行われる。
特定品目の処理にいたる一連の工程は、自動車リサイクル促進センターで電子情報として管理されている。これは日本独特の徹底した自動車登録制度をベースに構築されており、世界初の仕組みだ。リサイクル料金の一部はこうした情報管理、資金管理料金としても活用される。
法体系の整備から15年が経過し、自動車メーカーではよりリサイクルしやすい設計を志向しつつある。また処理を担う業界側も設備投資を積極化している。今後は、熱エネルギーとして回収していたものを素材として活用するなど、リサイクルの高度化が期待される。使用済み自動車からまだ使用可能な部品を取り出し、修理などで活用する仕組みも構築された。資源の乏しいわが国にとって、自動車リサイクルの推進、さらなる高度化は、環境負荷の低減以上に次世代の産業システムの姿を示しているようだ。
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□自動車リサイクル促進センター・宮林克行専務理事
■使用済み自動車 “無駄なく富に変わる”ことを知ってほしい
2005年1月から運用が始まったわが国の自動車リサイクルシステムは、すでに社会に定着し、リサイクル率(重量ベース)も当初の82%程度から現在では99%まで高まるなど、順調に機能している。不法投棄・不適正保管台数も当初の40分の1近くまで削減できた。メーカーなど関連事業者には、解体しやすい車体構造、リサイクルしやすい部品、部材の採用、リサイクルの高度化などが期待される。
一方で、人口減少・高齢化を背景に、車社会の姿も変貌していくことが予想される。今後20年、30年というスパンで自動運転が普及し、個人での所有からレンタル・リースシェアなどのサービスが主流になる可能性もある。
新しい自動車リサイクルは、資源利用の効率化に重点を置いた従来型から一歩踏み出し、無駄を富に変える「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」に根差したものになると考える。その意味で、カギを握るのがユーザーの役割だ。ユーザーは、リサイクル料金を負担し、使用済み自動車をリサイクルルートに乗せる役割も担っている。ユーザーが主体的に参加することで、自動車リサイクルは社会システムとして成長・進化していく。自動車としての残存価値はもとより部品、資源を含め“無駄なく富に変わる”ことを知ってもらいたい。
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■自動車リサイクル法制定の発端「豊島事件」 今年ようやく無害化処理が終了
自動車リサイクル法の制定が急がれた背景の一つに、瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)(香川県)を舞台に、大規模な産業廃棄物の不法処理・投棄が行われた「豊島事件」が挙げられる。オリーブやレモン栽培などで知られた豊島だったが、1970年代から産廃処理業者が進出。大量のシュレッダーダストを持ち込み、野焼きや不法な埋め立てで大規模な環境破壊が行われた。産廃の埋め立て用地の不足、処理費用の高騰なども事件の背景とされる。
90年代、原状回復などを求め、公害調停に踏み出した島民らの活動が全国的に高い関心を集め、同島からの産廃の撤去などが決まった。この事件と折からの環境意識の高まり、欧州での自動車リサイクル規制強化の動きが相まって、抜本的な自動車リサイクルの仕組みが導入された。
香川県は今年3月28日、2000年6月に地元住民と合意した公害調停に基づき、約14年かけて計約90万8000トンの産廃・汚染土壌を豊島から搬出した。5月末には、近くの直島(同県直島町)で行われていた焼却・溶融による無害化処理も終了した。
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