旧経営陣弁護側、真っ向反論で無罪主張「予測をはるかに超える津波」

東電強制起訴初公判
東京地裁に入る東京電力の勝俣恒久元会長(右)=30日午前

 東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴された元会長の勝俣恒久(77)、いずれも元副社長の武黒一郎(71)、武藤栄(67)の東電旧経営陣の3被告に対する初公判は30日午後、被告側の弁護人の冒頭陳述が行われた。弁護側は「予測をはるかに超える規模の津波で、全く想定されていないものだった」と真っ向から反論した。

 昼の休廷を挟んだ午後1時すぎ、硬い表情で入廷した3被告は一礼してそれぞれ席についた。

 「政府機関の長期評価と、それに基づく15.7メートルの津波が起こるとする試算は、予見可能性に足りる信頼性と成熟性を有するものではない」

 予見可能性があったとする指定弁護士側の主張に対し、弁護側は冒頭から、3被告に共通して予見義務と結果回避義務がなかったことを強調した。

 福島第1原発の法令に基づく安全対策の実施状況は、昭和35年のチリ地震津波の際の津波の高さを基に、小名浜港の海面からの高さ3.12メートルを基準とし、潮位差を加えても防災面からの敷地地盤高は4メートルと定めていたと指摘。「過去の最も過酷な数字を基にしており、これは(東日本大震災の起きた)平成23年3月11日まで効力があったと考える」と訴えた。

 14年2月、原子力発電所の具体的な津波評価方法を定めたものとしては唯一の基準となる「津波評価技術」が土木学会から刊行されると、標準的な評価手順として定着。「法令にプラスした安全対策がとられていた」と続け、震災は、さらなる安全を積み重ねている中で起きたとした。

 予見可能性のポイントとなる24年に政府の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」では、発生可能性のある津波地震について、マグニチュード(M)8.2前後、震源域の長さは約200キロ、震源域の幅は50キロとされている。

 弁護側は法廷内の左右の壁に設置されたモニターを使って、東日本大震災がマグニチュード(M)9.1~9.4、震源域の長さは400キロを超え、震源域の幅も200キロだったことを比較して提示すると、傍聴席からはわずかにどよめきが起きた。

 さらに福島第1原発は海抜約10メートルの高さに整備されているが、その10メートルを超える津波の予測についても、「長期評価では敷地南側からと予想されていたが、実際には東側全面から津波が遡上(そじょう)していた」と指摘。仮に防波堤設置などの措置をとるにも方角も異なり、「予測をはるかに超える規模の津波で、全く想定されていないものだった」と訴えた。

 3被告個人の責任について否定した弁護側。東電が従業員3万人を超えるマンモス企業であることを挙げ、勝俣被告においては入社以来原発関係の業務に携わったことがなかったことを説明すると、勝俣被告は視線を下に落とすようなしぐさを見せた。続けて弁護人が、専門性の高い分野だからこそ社長以下の判断を尊重していたとし、「監視義務はあったが、会長に業務執行権限はなかった」と強調すると、勝俣被告は再び前を見据えた。

 ここで弁護側の冒頭陳述は終了。永渕健一裁判長は続いて指定弁護士側の証拠調べに入ることを告げた。

 指定弁護士側は論文や有識者の意見、さまざまな調査結果などから、長期評価公表後に大規模地震が今後30年間で20パーセントの発生確率だったこと、福島第1原発は海水位上昇によって原子炉の冷却水ポンプが浸水する恐れがあったことなどを説明した。

 また、東電の会議メモなどで、海面から20メートルの高さの防潮堤を整備する必要性について議論した際に「(そこまで高い防潮堤は)対外的なインパクトが大きい。上層部の意見を聞く必要がある」との話になったことも明かした。

 中でも武黒、武藤両被告が出席した会議で、19年の新潟県中越沖地震を受け、同県内の柏崎刈羽原発だけでなく、福島第1、第2両原発に対策を「水平展開」するための総予算について言及があったことが説明された際は、最終的に十分な防潮堤整備に至らなかったことを疑問に感じたのか、傍聴席から「んー」とうなり声も上がった。

 関係者によると、数が二百数十にも上ったとされる証拠。これらの内容説明が終わると、弁護側の証拠調べに移った。

 弁護側は予見可能性について「(国が)データとして用いる過去の地震に関する資料が十分にないことなどから限界がある」との見解を示していたこと、また震災後の専門家会議で「数百年の(地震)発生履歴から、マグニチュード9.0の大地震は想定することができなかった」との意見があったことなどを挙げた。

 また、はっきりとした想定ではない試算のもとで防潮堤を整備していたとしても、津波が来襲する方角の予測を間違ったり、強度が十分でなかったり、十分な効力は発揮できなかっただろうとする東電従業員らへのヒアリング結果を説明。傍聴席からは厳しい目線が向けられた。

 ここで初公判は終了。閉廷時刻は午後4時半と午前中から長丁場だったが、3被告とも疲れた様子を見せず、いずれも最後まで表情を変えないまま退廷した。

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