「IoT時代」の特許戦略 排他的権利を活用、市場独占に重要
高論卓説政府は5日付で、経済産業省出身で首相秘書官だった宗像直子氏を女性初の特許庁長官に起用した。このニュースと関連してというわけではないが、改めて特許がどのような役割を果たしているのか述べたい。
そもそも、特許と聞いても抽象的なイメージしか思い浮かばない人が多いのではないだろうか。だが現代では、これまで特許が必要とされなかった業種においても、あらゆる機器がインターネットと接続する「モノのインターネット(IoT)」の発展により、特許と無関係ではいられなくなっている。
特許権とは発明に対して付与される権利のことである。この特許権を指して特許と呼ばれることが多い。特許権者は、特許権を侵害または侵害する恐れがある者に対して侵害行為をやめるよう請求する「差止請求権」という権利を有する。
金銭的な賠償を求める損害賠償請求をすることももちろん可能だが、相手に対して事業を中断させるよう要求することができる差止請求権は、特許権に基づく権利で一番強い権利だといえる。
他方で、特許に関するよくある勘違いが、特許があれば独占できるというものだ。特許は、排他的権利でしかない。確かに、誰かがある商品に関する自分の特許を侵害していれば、その侵害をやめるよう要求できる。その結果、商品を独占できるかのようにも思える。
しかし、その商品に必要な特許は恐らく何件もある。スマートフォンを例に考えてみると、通信技術、ユーザーインターフェース、スピーカーやマイク、内部ではメモリーなど、実に多数の技術が使われていることが分かる。
全ての技術について網羅的に特許を取得すれば、独占は可能であろうが現実的には不可能である。逆説的かもしれないが、特許戦略とは、この排他的権利を使って、どのように市場の独占(あるいはそれに近い状態)を実現するのかという点にある。
例えば、ある商品Aを製造する会社Xは、その商品Aについて、どうしても実施せざるを得ない技術についての特許権を取得することが可能かもしれない。他にもそのような実施せざるを得ない技術が多数あるかもしれず、これらの技術に関する特許を他の会社が保有していることは多々ある。
会社Xは、一件でもこのような特許(これを「必須特許」という)を保有していることで、少なくとも、この商品Aの市場を独占することができるメンバーに名を連ねることができる。他社を排除できるからだ。ただし、必須特許を保有している者同士では、相互に排除できることになるから通常にらみ合いになる。
このような必須特許を取得するような特許活動をすること、そして、必須特許を一件でも多く取得することを戦略的に考えることが、市場の独占に向け重要になってくる。
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【プロフィル】溝田宗司
みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年1月、溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。40歳。大阪府出身。
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