どうする、超難題「特許価値向上」

生かせ!知財ビジネス

 日本でプロパテント(特許重視)政策が本格化した2000年代以降、何度も指摘されてきた超難題の一つに「特許価値向上」の問題がある。ここに来て具体的な解決策を模索する動きが始まっている。一昨年、国の知的財産推進計画の柱に「知財紛争処理システムの活性化」が入った。最近、内閣府知的財産推進事務局が知財の有識者をヒアリングしており、特許庁も新たな調査研究を準備している。自民党は知的財産戦略調査会の知財紛争処理システム検討会で対策制度導入を提案した。

 根本的な問題の一つは特許をマネタイズ(収益化)の活用対象として、どこまで考えるかにある。日本では特許侵害時の損害賠償額と原告勝訴率が他国に比べて低すぎる。これは日本より米国やドイツ、中国などへ特許出願し、その国の裁判所で争った方が権利を守ることができ、より多くの損害賠償金を得られるという発想につながる半面、日本で発明し、権利を活用する動機付けが低下するという懸念が生じる。これを自民党は日本における「特許資産デフレ」と呼んでいる。

 実際、年間の知財訴訟件数は約500件で米国の8分の1程度。1億円を超える損害倍賞額は数件に過ぎず、米国なら1年間の訴訟費用で消えてしまう。原告勝訴率は2割前後と低く、敗訴率と和解率は4割前後と高い。

 原因は何か。都内の米国弁護士・弁理士は侵害を立証するのは特許権者(原告)側で、侵害した相手の事実を立証する難しさに加え、「日本の裁判所は損害賠償額算定で(売上高に対する特許の)寄与率を、ロイヤルティー料率に掛け、算定額を下げている。日本独自の方法で企業間の取引実務では通常用いない」と指摘する。

 では勝訴率と損害賠償額が上がれば、本当に訴訟件数も増えるのか。実は現代の日本人や日本企業にとって、“紛争”こそが、最も苦手で避けたいことの一つではないだろうか。知財紛争も、損害賠償金より侵害行為さえ差し止められればいいという考え方もある。インフラの問題もある。米国の場合、裁判所の場所、裁判官、賠償金額が蓄積された訴訟関連データベースが発達し、紛争当事者や弁護士はデータ解析に時間をかけている。

 特許価値向上を何に活用するために進めるのか、日本人、日本企業としての本格的な議論に期待したい。(知財情報&戦略システム 中岡浩)