文化財保護に技術取引の専門家が奔走
生かせ!知財ビジネス■静岡県・木村屋敷
「知的財産」とは知的な創作に付随する財産的価値のことである。建築も知的創作の一種だが、そこに歴史や文化が加わると、さらに高い価値を持つことになる。都内の外資系不動産会社に勤める田中嘉一氏は現在、静岡県にある通称「木村屋敷」について、国の重要文化財指定を受けるための情報収集を進めている。
木村屋敷は80年ほど前、海外賓客をもてなすために旧三井財閥の團琢磨が建築し、旧三菱財閥の木村久寿弥太が継承した迎賓館だ。田中氏が木村屋敷を知ったのは、顧客であり、屋敷を所有する親日的な海外個人投資家の調査依頼がきっかけだった。少しでも顧客の利益になればと田中氏はこの春から、調査に乗り出した。
現地を調査すると、損傷箇所もあり、現代では入手困難な部材や銘木が使われているため、完全修復には相当な知識と費用がかかるかもしれないことが分かった。
「十六弁菊家紋、八角形の床柱の意匠が施された、天皇家のためとみられる茶室がしつらえられ、産業界を支えた旧財閥の遺産としてだけでなく、その伝統的な価値にも衝撃を受けた」と田中氏。前所有者のときに国の有形文化財登録を受けていたが、調査を進める中で重要文化財としての価値があるのでは、と考えた田中氏は、前所有者、旧財閥関係者、歴史家、造園家、建築家、官庁の関係者を訪問して調査を進めることを決意した。
実は田中氏は11年前まで経産省系財団のテクノマート事業部で技術取引市場の整備を進め、その後は技術や特許の国際的仲介を自ら実践してきた専門家だ。
「現所有者の利益のためだけではなく、何かしなければいけないと思った。価値ある木村屋敷をぜひ後世に残したい。今後誰かの投機に利用されたなら、木村屋敷の価値はあっという間になくなってしまう」と田中氏。同じことは過去にも知財で経験した。技術や特許が移転先の企業や国で生かされるかどうかは買い手の資質で変わる。買い手が、特許権を乱用して特許侵害の和解金などを要求するパテント・トロールなら訴訟ネタにされ、その学術や産業上の本来の価値は棚上げされてしまう。
「不動産と知財は取引上の類似点が多い。今は不動産業や木村屋敷で手いっぱいだが、少しずつ優良な技術案件を集めている」と笑う田中氏。一段落したら技術取引を再開するようだ。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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