レトロテクノロジー<蓄熱> 再エネ拡大に脚光
寄稿□エネルギー総合工学研究所 主管研究員・岡崎徹
世界初の蓄熱発電が建設開始
2016年9月、独シーメンスの風力部門が再生可能エネルギーの大量導入のために世界初の蓄熱発電所の建設を開始した。蓄熱発電所とは、不安定な再エネ電力を熱に変換して蓄熱し、必要時に安定発電するものである(図1)。蓄熱といっても「湯たんぽ」のようなローテクではなく、600℃にも達する高温で砕石に蓄熱し、必要時に超高圧蒸気を発生させて蒸気タービン発電させる。いまだに性能向上をし続けるハイテクであるが、基本は400年以上の歴史があるレトロテクノロジーでもある熱機械である。
再エネの大量導入に伴う不安定性の解消は喫緊の課題である。系統の強化ではさまざまな制約や、そもそも既存の化石燃料設備を減らせない。揚水発電所の新規建設は既に難しく、蓄電池を用いた数時間以上の長周期の再エネ安定化には経済性の課題がまだまだ大きい現在、蓄熱発電所が急速に注目を浴びだした。
この蓄熱発電所の概念は、一見すると非常識でばかげている。なぜならば熱から電力に変換する際には損失が大きく、揚水や蓄電池と比べて効率が遙かに劣るからである。せっかく苦労して収集した電力をいったん熱に変えると、再び電力に戻す際に半分以下に目減りしてしまい非合理的である。充放電効率の遙かに良い蓄電池の方が優れている、と思われてきた。
しかし、ここには大きな見落としがあった。蓄エネルギーコストである。エネルギーを貯めるには設備が必要であり、その設備には寿命がある。そのため充放電ごとに一定のコストがかかる。このコストが蓄熱は圧倒的に安価で蓄電池の20分の1から100分の1になる。蓄熱からの発電は蓄電池に比べておおよそ2分の1の効率であるが、充放電コストがこれほど安いと結果的に経済性に優れる領域が出てくる。具体的には数時間以上の蓄エネルギーでは蓄熱の方が経済的である。
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これを間接的に裏付けるものとして、近年の太陽熱発電(CSP=Concentrated Solar Power)の導入が上げられる。例えばチリ・ドバイでは既に大量の太陽電池(PV=Photovoltaics)が設置されているが、夜間電力のために蓄熱を利用する太陽熱発電を導入する。CSPの発電コストは15セント/kWhで、3セント/kWhのPVの数倍のコストであるにもかかわらずである。当然PVと電池の組み合わせも検討されたが、これらより圧倒的に経済的であると判断された。
実は最も多く稼働する蓄熱発電
蓄熱にはCSP導入に伴って多数の実績がある。図2は揚水を除く世界の蓄エネルギーの実態を示す。しかし、国際再エネ機関(IRENA)でさえ2015年発行資料の一つ「Battery storage for renewables: market status and technology outlook」では「蓄熱からの発電はまだ開発段階である」と述べるほどの事実誤認がある。さらにIEAの「Energy Technology Perspectives 2017」では蓄熱にほとんど触れられていない。日本での報告会で担当者に直接質問すると、紙幅の関係などで落とした、とのことであった。
実際は蓄熱のプロジェクト数は少ないながら、全電池システムの6倍もの蓄エネルギー量を持つ。世界で蓄エネルギーは、と聞かれれば蓄熱であるのが実態である。しかし金額ベースでは恐らく10分の1以下で、プロジェクト数も少なくノウハウ流出を嫌って発表も少なく、実態が知られていない。研究開発投資に至っては圧倒的に少ないと思われる。また24時間安定発電を実証したのも2011年と比較的新しい。さらに蓄熱にはさまざまなバリエーションがあり、実用化された2GWh(超大型発電所の2時間分エネルギー)もの蓄積をする巨大設備から実験室レベルの物までさまざまである。蓄熱技術も単純で実用化された顕熱蓄熱から、より低コスト化・長貯蔵期間を狙った潜熱・化学蓄熱など開発中の物がある。
先日の内閣府・エネルギー戦略協議会で、上記の事実が明らかにされた。その結果、日本での再エネ大量導入に蓄熱も重要な要素を占めることが認識され、これまで蓄エネルギー技術マップに含まれていなかった蓄熱が新たに記載されることとなった。これに沿って蓄熱技術開発の強化が期待され、日本への経済的再エネ大量導入が可能となる。現在、関係者間で調整しつつ本格的な開発開始を検討中である。
世界に目を向けると、今後の電力エネルギー需要増加はOECD諸国以外である。数年前までは、再エネ導入は先進国の道義的義務とされてきた。しかし再エネがチリやドバイのように3セント/kWhの発電コストとなり最も安いエネルギー源となると、再エネが経済的にも第一選択肢になる。ただし非OECD諸国では需要の伸びが大きく、系統強化などでは再エネ不安定性を解消できない。蓄エネルギー設備が必須となり、蓄熱発電所が最も経済的である。さらに蓄熱発電所の大部分は自国産業を利用して建設でき産業振興にも繋がるというメリットもある。
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自然は多様で、自然界に生物多様性が必要なように再エネにも多様性が必要である。蓄熱発電も長所短所があり、これを把握して蓄電池や、図2に示したように大きな容量で運転されているCAES、将来は水素などとのベストミックスを探る必要がある。風力熱発電という風力発電をさらに経済的に実現する概念もある。熱が、熱くなってきた。
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【プロフィル】岡崎徹
1961年10月大阪生まれ。85年京都大学工学部電気系工学科卒。87年同大学院工学研究科修士課程修了。住友電気工業勤務。磁場応用製品開発に従事。社内留学制度により98年英国バーミンガム大学博士号取得。超電導応用製品の開発中に風力熱発電の着想を得る。2012年国際超電導産業技術研究所に出向、普及啓発・国際部長、16年エネルギー総合工学研究所に出向。
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