「夏の甲子園」の経済効果 放送権料受け取れば…それでも動かない高野連
スポーツbiz深紅の優勝旗は埼玉代表の花咲徳栄が手にするのか、それとも広島代表の広陵に栄冠が輝くか。どちらが勝っても初優勝。夏の風物詩、全国高等学校野球選手権大会はきょう23日の決勝で、熱戦の幕を下ろす。
話題の早稲田実業、清宮幸太郎選手こそ姿を見せなかったものの、すでに甲子園の空には史上最多、68本のホームランアーチがかかった。急激な打力向上の裏には何があるのか。密かに“飛ぶボール”が導入されてでもいたのだろうか。
入場者80万人超
そんなことさえ人々の話題に上り、今年も入場者は80万人を突破するだろう。90回記念大会として過去最多タイの55校が出場した2008年以来、10年連続の80万人台となる。
かつて、高校野球をこよなく愛した作家の阿久悠さんは、夏の甲子園を「やぶ入り」に例えた。離れている故郷を思い、若き日の感傷に浸る。出身校の枠を超え、思いは甲子園に凝縮される。全都道府県から代表が選出される夏ならではの人気の源だと、勝手に解釈している。
来年は100回の記念大会。話題も人気も、さらに高まっていくに違いない。
入場料はバックネット裏の中央特別自由席が2000円、以下、内野の特別自由席1500円(子供600円)、アルプス席600円。外野は無料で開放されている。
毎年12月、日本高校野球連盟(高野連)と朝日新聞社は大会の収支決算を公表しており、昨夏の大会は総入場者数83万7000人で、有料入場者数は49万2542人。収入は、4億5170万8767円であった。
ここから出場校への経費補助を含む大会開催費用や地方大会費、本部運営費など支出が計上され、それでも昨年は差し引き9536万2222円の余剰金があった。余剰金は軟式野球への補助や、学生野球関連への助成、選抜チームの海外遠征などに充てられる。
春の選抜大会も22日、同様に収支決算を公表した。今春の入場料収入は2億7358万6742円、4173万1912円の余剰金を計上した。
じつは高野連の収入はこの入場料が9割(ほかに物販収入)を占めている。余剰金を考えれば「優良企業」といえよう。
一方で、大会はボランティアに支えられている。炎天下の激務である審判ですら、交通費、宿泊費に加え、日当をうけるだけ。善意の奉仕が基本で、「審判委員」という名の指導的立場が与えられるに過ぎない。有給休暇を取って甲子園に駆けつける委員も少なくなく、人員確保に苦労する現実がある。
出場校への補助も、選手、監督、責任教師あわせて20人に交通費と1日3000円の滞在費が支出されるのみ。足りない分は出場校の自己負担である。勢い、出場が決まった各高校は同窓会などを通じた資金集めに奔走しなければならない。
NHKやテレビ朝日系の全国テレビ中継は高い視聴率を誇るが、高野連は一切、放送権料を受け取ってはいない。NHKは開局3年目の1927年からラジオによる全国中継を始めた。その際、人気向上と普及への対価とした取り決めが、今も生きる。関係者によれば、仮に放送権料を設定すれば、10億円はくだらないというのに。
放送権料受け取れば
放送権料を受け取れば、審判委員の負担が軽減され、出場校への補助も増やせるだろう。また、入場料金を少し上げれば収入は大幅に増える。それを少子化に加え、用具代や遠征費、父母会費などの自己負担の大きさから「入部志願者頭打ち」となっている現状打破の対策に役立てることも可能ではないか。
しかし、高野連は動かない。「教育がすべての大前提」。かつて高野連関係者に取材したとき、返ってきた答えは、今も変わっていない。
関西大の宮本勝浩名誉教授の試算によれば、今夏の甲子園の経済波及効果は約351億円に上る。直接消費支出は約162億円、学校関係が約34億円で一般観客を約123億円と想定。その他、テレビの買い替えや雑誌の販売増などの効果や関連産業の売り上げ増なども織り込まれた。ちなみに今春の選抜大会は約229億円と試算された。
高校野球にはそれほどの価値がある。だからスポーツ市場規模の拡大を目標に掲げるスポーツ庁は「高校野球資源の活用」も視野に入れるのだが…。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)
関連記事