金融機関、特許情報活用拡大の好機

生かせ!知財ビジネス
金融行政の本丸である金融庁。森信親長官の続投が金融業界と知財業界との接点を広げる好機となるか=東京・霞が関

 金融庁・森信親長官の3年目続投が決定し、1カ月余りがたった。特許事務所や知財コンサルティング会社、特許情報事業者などの知財ビジネス事業者は今こそ、金融機関へのアプローチを開始すべきではないだろうか。

 ある金融関係者は「経営環境は依然厳しい。今後も淘汰(とうた)されていく銀行、信金は出てくる」と言う。なぜ淘汰されるのか。本来業務である地域での融資業務で収益が稼げないという基本的問題が解決されないからだ。

 森長官はこれまで、金融機関の財務情報や担保・保証に頼る融資モデルからの脱却を目指してきた。行職員が企業や地域などと関係を構築して情報収集し、企業の事業内容や成長性などの理解を深化させることで融資や支援を判断する「事業性評価」の普及を推進してきた。

 事業性評価のアプローチでは、さまざまな情報を活用する。その一つが特許・技術などの情報だ。そこには知財ビジネス事業者が関与するチャンスが生まれている。実際8月に入って、まだ数は少ないが、金融機関関係から相談されたという声が同事業者から聞かれる。

 都内の知財情報会社の担当者は「最近、金融機関のシステムに知財情報の組み込みは可能かと聞かれ、特許データ提供などのシステム開発は可能だと答えた」と言う。

 また、都内大手特許事務所へは、金融機関向けコンサルティング会社から知財ビジネス評価書の作成について、問い合わせがあった。

 知財ビジネス評価書とは、特許庁が金融機関の顧客企業の事業性評価を支援する「知財金融事業」で提供される調査分析リポートだ。その多くは一部の先進的な特許事務所の弁理士が作成している。

 日本弁理士会の意識も変わりつつある。昨年度までに受託した知財ビジネス評価書の件数は非常にわずかだったが、今春、新設された知的財産経営センターにおいて評価内容などを再検討し、受託の増加へ向け、力を入れている。

 森長官の続投により、金融機関のビジネスモデル転換は続く。こうした中、特許・技術などの情報活用の有用性も証明され始めている。大企業の知財部門を主要な顧客としてきた知財ビジネス事業者は勇気をもって金融機関を顧客とするビジネスに挑むときではないか。(知財情報&戦略システム 中岡浩)