「あの人と話すとイライラする」 ウマが合わない原因は“脳のタイプ”の違いにあった?

 
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 「ノリが悪いなぁ」「あの人は細かすぎる」。いまいちウマが合わない人にイライラすることはないだろうか。もしかしたら、あなたとその人は“脳のタイプ”が違うのかもしれない。「怖いほどその人の本質が分かる」という性格診断「エマジェネティックス」が、企業の採用現場などで注目を集めている。個人の“脳の癖”が分かるという、この診断ツールを新卒採用で導入したIT企業では、離職率が大幅に下がった。エマジェネティックスの秘密と「実力」に迫ってみた。

嫌いじゃないのになぜかイライラする原因

 「あの人のこと、そこまで嫌いなわけじゃないんだけど、なんかイラつくんだよなぁ…」。めったに顔を合わせない相手ならばまだしも、職場の上司や部下にそう感じるのであれば深刻な問題だ。その人の言動にイチイチ腹を立て、接触を避けようとしてギクシャクし、しまいには異動や転職もやむを得なくなるほど関係が悪化するかもしれない。

 だが、気に入らない相手でも「そもそも自分とは“脳のタイプ”が違うから、考え方が違っていて当然」と分かっていればどうだろうか? 相手に寛容になり、自分も謙虚になり、どう接すればうまくコミュニケーションが取れるのか、付き合い方を見直すきっかけになるだろう。

 この個人の「脳のタイプ」を知りたいというニーズに応えるべく開発されたのが、性格診断「エマジェネティックス」なのだ。

 「エマジェネティックス」は、100の質問に回答するだけで、その人の“脳の癖”を明らかにする分析ツールだ。生まれ持った「遺伝的要因」と、育った「環境的要因」とで形成された個人の特性が分かるという。1991年に米国で開発されてから世界の79カ国で展開され、これまで40万人以上に利用されてきた。

 診断結果が似ているタイプ同士であればスムーズにコミュニケーションが取れるそうだが、逆のタイプだといまいち噛み合わない。嫌いではないのになぜかウマが合わないと感じる相手とは、もしかするとエマジェネティックスでいう“脳のタイプ”が違っているからかもしれない。

“脳の癖” あなたはどのタイプ?

 「“辞めない人材”を採用するためにエマジェネティックスを活用しています」。ITソリューションサービスを手掛けるシンクスクエア(本社・東京都)では、2016年から新卒採用にエマジェネティックスを導入している。田中健一社長は「人事担当者も採用では判断に迷う場面があります。彼らの好みや感覚だけに頼ることなく、面接だけでは掴みきれなかった本人の特性をデータで確認しながら、弊社社員と優秀なチームを作っていけるかを判断しています」と話す。

 米国のマイクロソフトやオラクルなど研修に取り入れる企業も多く、同僚の特性を理解することで良好なコミュニケーションを促したり、チームの生産性を高めたりと結束力のある組織づくりのために活用されている。

 では、実際にどんな特性が明らかになるのか見てみよう。前述のとおり、100の質問に回答すると、その人の思考と行動のパターンが数値化され、プロファイルとしてまとめられる。まず思考の癖では、次の4つの思考特性がパーセンテージで示される。

■分析型(論理的、データを重視するタイプ)

■構造型(実務的、予想できることを好むタイプ)

■社交型(社交的、関係性を重視するタイプ)

■コンセプト型(創造的、アイデアがひらめくタイプ)

 例えば、「構造型」と「コンセプト型」の人がランチの約束をするとき、次のような会話が繰り広げられるかもしれない。

コンセプト型(以下「コ」)「明日、ランチを食べに行こうよ!」

構造型(以下「構」)「ずいぶん急だね(笑)。いいけど、何時にする?」

コ「決まりだね。朝起きたら連絡するから、その後に合流しよう」

構「一応、待ち合わせ時間は決めておかない? 12時はどう?」

コ「起きられるかな…。頑張るよ!」

構「何を食べたいの?」

コ「魚料理なんてどう?」

構「いいね。行きたいお店は決まってる?」

コ「築地に行けば、どこか良いお店がありそうじゃない?」

構「何店か目星はつけてるの?」

コ「いや。ぶらぶらして見つけようよ」

構「土日は市場が閉まってるから、営業してるお店が少ないんじゃない?」

コ「大丈夫だよ。どこかは開いてるよ。じゃあ明日ね」

構「あ、待って。待ち合わせ場所は?」

コ「築地駅でいいんじゃない」

構「何番出口?」

コ「着いたら電話するよ。じゃあね」

 この場合、構造型の人は「本当に時間通りに来るのか」「開いてるお店は見つかるのか」「待ち合わせ場所が分かるか」など予測できないことに不安を抱える。一方、コンセプト型の人は「明日、起きたら電話するって言っているのに。それから、その日の予定を決めたらいいじゃないか」と細かいやり取りにイライラする。あなたは4つの特性のうち、「自分はこのタイプかな?」と思い当たる節があっただろうか?

 次に行動の癖では、「自己表現性」「自己主張性」「柔軟性」の3つの行動特性(行動の癖)がパーセンタイル化される(小さい数字から大きい数字に並べ、何パーセント目にあたるかが示される)。3つの行動特性の定義は以下だ。

■自己表現性(自分の考えや感情を表現する度合い)

■自己主張性(周囲に対してどれだけ主導権を握りたいかの度合い)

■柔軟性(他人の考えや行動を受け入れようとする意思の度合い)

 例えば自己表現性が80パーセンタイル(高い)、自己主張性が20パーセンタイル(低い)、柔軟性が90パーセンタイル(高い)のAさんが、職場の慰安旅行先を決めるための打合せをしていたとしよう。

 まず、会話を仕切るのは口数が多いAさんだ。

 A「早速始めよう。旅先はどこがいいかな?」

 Aさんは意見するのに抵抗がないため、自身が行ってみたかった旅先を提案する。

 A「夏だし、避暑地の軽井沢なんてどう?」

 ところが、他の人からはハワイへ行きたいと声があがり、賛同する者もでてきた。周囲に対して、主導権を握りたいという欲求が低く、他人の意見を受け入れることに抵抗がないAさんはこれを快諾する。

 A「たしかに、ハワイも夏らしくていいね! バナナボートに乗ろう!」

 もし自己主張性の強い人であれば、「国内旅行の方が経費削減できる」と説得するかもしれないし、柔軟性の低い人であれば「慰安旅行は不参加にして、個人的に軽井沢へ行こう」と、あくまで自分の意志を貫くかもしれない。

 思考特性も行動特性も、数値で優劣をつけるものではない。たとえ柔軟性が低くてもそれは個人の特性であり、本人に悪気はないのである。

離職率も低下

 「人の好みで業務が阻害されてしまうのはもったいない。『敵を知り己を知れば…』じゃないですが、相手の本質を知ることでその人とのコミュニケーション方法を改善させる手立てになる」と話す前出の田中社長は、新卒採用で導入したエマジェネティックスの効果を感じているという。

 「新入社員の入社後は、思考特性が似ている社員と同じチームに配属することで、安心して働ける環境を整えています。働く楽しさを実感してもらえれば、会社に根付いてもらえます」(田中社長)。導入前の離職率は20%程度だったが、狙いどおり、今では5%程度まで下がったという。

 今では、新卒採用だけでなく既存社員の指導や管理にも活用している。社内には全社員のプロファイルを張り出し、上司や部下の思考と行動パターンを知ることができる。「例えば打合せ相手の特性をあらかじめ確認することで、『相手は分析型だからデータを集めよう』と準備ができる。他にも、管理職は部下一人ひとりに適した指導ができる。業務を円滑に進められるよう、アプローチ方法を考えることができるんです」(田中社長)。

 社員からも好評だ。新入社員の稲垣万里絵さんは、「私は自分の意見を引っこめてしまいがちですが、その性質が出そうになると他の人が注意してくれたり、発言できるよう促してくれます」と、周囲の理解によって苦手なことを克服できている。

 今日も人知れず職場の誰かにイライラしているあなた。この記事を読んだ後は、なんだかあの人に優しくできそうじゃないですか?(SankeiBiz 久住梨子)