1都5県を支える浦山ダム、利根大堰

水と共生(とも)に
上空から見た浦山ダム(本社ヘリから)

 関東の1都5県(東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉)の膨大な水需要を支えているのが、利根川水系と荒川水系である。利根川水系は1都5県の水需要の77%、荒川水系は7%を担っている。日本最大の流域面積(1万6840平方キロメートル)を誇る利根川は、通常時と洪水時の流量の差が大きいことで知られる。利根川水系のダムといえば、関東最大の水がめ、矢木沢ダム(群馬県みなかみ町)が有名だが、今回は荒川水系の浦山ダム(埼玉県秩父市)と利根川水系の利根大堰(おおぜき)(同県行田市・群馬県千代田町)に焦点を当ててみたい。

 ■洪水調節機能で被害軽減

 ◆荒川水系

 荒川は、山梨、埼玉、長野の県境にある甲武信ケ岳(こぶしがたけ)(標高2475メートル)に始まる。甲武信ケ岳は3大河川の源流となっており、日本最長の河川である千曲川は、新潟県に入って信濃川と名前を変え、日本海に注ぐ。笛吹川は、甲府盆地に入って釜無川と合流し、富士川と名前を変え、駿河湾に注いでいる。荒川は関東平野を横切り東京湾に注ぐ。甲武信ケ岳は、まさに分水嶺(ぶんすいれい)の“親方級”である。

 荒川は山地に深いV字谷を刻みながら、河川法で管理される一級河川・荒川の起点である入川・赤沢合流点(埼玉県秩父市大滝)に至る。その後、同県の長瀞を経由して寄居を過ぎ、緩やかな扇状地帯(洪積台地)を流れて本流は東京湾に注ぐ。

 一方、東京都北区の岩淵水門で分派した荒川の流れは隅田川に入り、蛇行しながら石神井川、東京・両国の手前で神田川、最後の永代橋手前で日本橋川と合流し、東京湾に注いでいる。

 ◆荒川水系の浦山ダム

 河川水を有効利用するには貯留ダムが必要である。ダムの語源は中世オランダ語の「DAM」と言われている。中世オランダは国土の大部分が海面下にあり、川に堰を設けて排水し、国土を創ってきた長い歴史がある。アムステル川に堰をつくり発展した街がアムステルダム、ロッテ川に堰をつくって発展した街がロッテルダムである。

 国際的なダムの定義では「堤高が5メートル以上、貯水容量が300万立方メートル以上の堰堤(えんてい)を持つ構造物」をダムと称している。堤高が15メートル以上のものをハイダム、それに満たないものをローダムと定義し、日本の河川法で定めているダムはハイダムを指し、それ以外は堰として扱っている。

 ◆浦山ダムの建設目的

 浦山ダムは重力式コンクリートダムで、28年の歳月をかけて1998年に完成した。ダムの高さは(堤高)156メートル、堤頂の長さ372メートル、総貯水容量は5800万立方メートルである。

 目的は、洪水調節、不特定利水、東京都や埼玉県への上水道水源、発電などである。洪水調節機能では、ダム地点での基本高水流量1000立方メートル/秒(100年に一度起こりうる洪水の流量)のうち、890立方メートル/秒をダムに貯留し、下流への放水量を110立方メートル/秒に減らすことにより洪水被害の軽減を図る。

 また、水道用水として秩父市、埼玉県、東京都に合計4.1立方メートル/秒(給水人口約116万人分)を供給している。

 ■首都圏の水需要支える

 ◆利根大堰

 江戸時代初期から利根川中流域の左右岸から取水していた8つの農業用水が、河床低下(川底が低くなる)により取水に困難を来したことや、首都圏の急激な水需要の増大に対応するため、「利根導水事業」が計画され、その一環として利根大堰が建設された。63年に事業に着手し、68年に完成した。この利根大堰を通じて年間約18億立方メートルの水を利根川から取水し、農業用水(2万3300ヘクタール)、水道用水(給水人口約1200万人)、工業用水として供給し、首都圏の生活や経済を支えている。

 ◆利根大堰の概要

 利根川の長さは322キロメートルで、信濃川に次いで長い。通常流量は290立方メートル/秒(埼玉・栗橋観測所)だが、洪水時は約100倍の流量になる。海外の河川をみると、洪水時と平常時の流量差が1ケタ(英テムズ川は8倍、独ドナウ川4倍、米ミシシッピ川3倍)なので、利根川のケタ違いぶりが分かる。利根川上流で降った雨は山を駆け下り、水路を走り、海に突入する超特急のようである。利根川は昔から坂東太郎(暴れ川)の異名を持つ。

 埼玉と群馬の県境にある利根大堰は、利根川河口の上流154キロメートルに位置し、ゲート12門、取水口、樋管、沈砂池で構成されている。取水口から農業用水、都市用水、浄化用水として合計最大約120立方メートル/秒を取水している。取水された水は、行田水路、見沼代用水路、武蔵水路、埼玉用水路、邑楽(おうら)導水路に分水されている。中でも武蔵水路は、利根川(利根大堰)から埼玉県鴻巣市の荒川に注ぐ連絡水路として14.5キロメートルの長さを持ち、埼玉県や東京都の都市用水として最大約29.6立方メートル/秒、隅田川の浄化用水として最大8.2立方メートル/秒を導水している。

 ◆秋ケ瀬取水堰

 利根大堰から武蔵水路や見沼代用水路に分水された用水は荒川に注水され、荒川河口から35キロメートルに位置する秋ケ瀬取水堰(埼玉県志木市)の可動堰で水位を一定に保たれている。その用水は朝霞水路を通り、東京都水道局の朝霞浄水場(埼玉県朝霞市)、三園浄水場(板橋区)、東村山浄水場(東村山市)、金町浄水場(葛飾区)などに送られ、首都圏の水需要の約8割を支えている。

 近年の地球温暖化により水資源の偏り(洪水や干魃(かんばつ))が頻発しており、水資源を統合管理するために、さらなる設備増強とネットワーク化が求められている。

                  ◇

【プロフィル】吉村和就

 よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。