「事件契機のSNS規制はやめた方がいい」「SNSは逃げ場」、NPO法人代表が環境整備を訴え

 
若者が心の闇を共有し、自殺を思いとどまれるような環境整備が必要と訴えるBONDプロジェクトの橘ジュン代表

 神奈川県座間市のアパートで男女9人が遺体で見つかった事件の発端は、被害者がツイッターなどの会員制交流サイト(SNS)に書き込んだ「自殺願望」だった。事件を契機に、政府はSNSの対策強化を打ち出した。だが、性暴力や親による虐待などで「自殺したい」と追い詰められる若年層を支援してきたNPO法人「BONDプロジェクト」(東京都渋谷区)の橘ジュン代表(46)は産経新聞のインタビューで規制に異論を唱える。犯罪に悪用される要素を検証したうえで、心の闇を共有し、自殺を思いとどまれるような環境整備の必要性を主張する。

 「寄り添って」の裏返し

 --SNSで「死にたい」と訴えた女性たちが本当に求めたものは、何だったのだろうか?

 「被害にあった女性たちはとても苦しい状況にあったと思う。ツイッターで自殺願望をつぶやいたのは『ここでしか吐き出せないし、共感を得られない』と思ったからではないか。女性たちの『死にたい』という言葉は、孤独を感じている自分に『誰か寄り添ってほしい』という願望の裏返しだと思う。たまたまその思いを表現した言葉が『死にたい』だったのではないか」

 --事件を契機に、政府はSNSの対策強化を打ち出した

 「規制はやめた方がいいと思う。自分の両親や、どこの学校に通っているか知っている身近な人には悩みを相談できないと感じる若者にとって、(SNSで出会った)見知らぬ人だからこそ本音を吐き出せるという心理がある。いわば逃げ場となっているSNSで、悩みや思いをつぶやけなくなったら問題が表に出にくくなり、闇に葬られる危険性がある」

 パトロールが重要

 --でも、白石隆浩容疑者のようなSNSユーザーへの対応は必要ではないか

 「白石容疑者のように、SNSで悩みをつぶやく女性にわなを仕掛けるぐらいの下心があるユーザーの中にはレスポンスが早い人が目立つ。彼らの回答の早さには、私たちも正直言ってかなわない。あのような人物から若者を守るためには、白石容疑者やSNSで女性にわなを仕掛けるのはどういう人物かを検証し、SNSパトロールのようなことを行うことが重要だと思う」

 --では、若者にとって必要なものは何か

 「今、私が必要だと思うのは、若者が安心して死にたいという気持ちを吐き出せる『安全な場』をつくること。そして、そこに集まった若者が抱く苦しみに共感できる経験者や、同じ思いを抱きながらも生きる希望を捨てずにいる当事者が寄り添うことができればなおいい。死にたい気持ちが高まっている若者が一度立ち止まり、自暴自棄にならずにすむ場所が求められているのではないか」

(植木裕香子、写真も)