【ローカリゼーションマップ】認識のグレーゾーンを探す 世界の文字で「遊ぶ」前澤知美さん
前澤知美さんという英国・リバプールで活動しているグラフィックデザイナーに注目している。彼女はアルファベットやひらがな、あるいはアラビア文字に至るまで、文字で「遊んでいる」。この遊び方が面白い。
まず文字の解体作業を行う。例えば「ありがと」という文字列があれば、「あ」「り」「が」「と」のそれぞれを解体するのだが、そのルールは書きながら、一息つくところでストップし、それを一つの要素として抽出するのである。
これと同じ作業をアルファベットやアラビア文字に対しても行っていく「ありがと」とアラビア語の「ありがと」を解体し、それらをもう一度パターンとして並べ直した。それらにカラーリングも施している。(画像をご覧頂かないと解体された姿が分かりにくいので、そちらをご覧ください)。
似たようなパターンが異なった言語にあることに気づく。
一息を基準にするのだから、書き順が重要になる。日本語を外国語として学ぶ人は、書き順よりも文字を図形として認識する傾向がある。そのため、この解体の仕方はそれなりに文字を書く習慣を知らないと難しい。
しかし、日本語だけに書き順があるわけではない。アルファベットやアラビア文字も筆記体になると、書き順は大切である。だから、どういう崩し方になると筆記体になるかを見極めるのが、この遊びの楽しみの一つになる。
崩すといっても、筆記体はカジュアルダウンではない。服装ではいえばドレスアップにあたる。その鍵を前澤さんは探るのだ。
前澤さんが、このような遊びに耽るのはいつからなのだろう。
彼女は武蔵野美大を卒業した後、ロンドンのセントラル・セント・マーティンズで修士を終えた。それからイタリアのベネトングループのコミュニケーションリサーチセンター・ファブリカで活動。その後、日本のデザインファーム・タクラムで仕事をしてまた英国に向かった。
「ロンドンの修士課程にいた頃から、アルファベットのAは山は一息とするから2画、Bは3画とか考えはじめたのですよね。そうするとシンプルながら似たようなカタチが線の長さや点によって、関係図に見えたり文字に見えたりするのです」(前澤さん)
「認識のグレーゾーンを探す」という表現を彼女は使う。この遊びで異なった文化が分かるというより、いろいろな文化にある共通点に気づいていける、と感じている。
日本語もアラビア語も文章を右から書いていくが、文字のパターンも両者には共通点が多いのではないかと思う。
日本の街や書物にアルファベットが溢れかえっている。特に自動車の名前など日本語を探す方が難しいくらいだ。
この現象はかつて西洋文化への劣等感の裏返しと批判されることが多かった。しかし、英国の日本文化とは全く関係のない音楽グループの英国でのコンサートチケットにカタカナが使われたりする。彼らに日本文化コンプレックスがあるとも思えない。
異なった文化の文字を「遊び」として使うことを、世界各地のトレンドに敏感な人たちが意識しはじめた、と考えたほうが良さそうだ。
もし前澤さんが100%ビジネスを意識したデザイン試作と考えていたなら、ぼくはこのように思わなかっただろう。ビジネス上のデザイントレンドを語るとなると、英国発ファッションブランド「Superdry極度乾燥(しなさい)」と比較してしまったりする。
しかし、これは前澤さんの個人的な試みである。遊びであるからこそ、より自由にいろいろと気づいた点を多数のアングルから深められるはずだ。だからぼくは彼女の活動から目が離せないと思ってしまう。
あらゆるアイデアや思考の宝は遊びにこそあり、ビジネス的アウトプットはそうした宝を絞った結果である。習作はいわば思索の跡である。
習作にこそエネルギーを全力で注がないといけない。他の言葉で表現するなら、遊びこそ真剣になる姿が望ましい。(安西洋之)
【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。
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