「カセットテープ」が再評価?! 中年よ、「黒歴史」を含めて語ろう

 
※写真はイメージです(Getty Images)

【常見陽平のビバ!中年】

 平成も残りわずかとなってきた。何かと、「平成最後の」という枕言葉がつく今日この頃だ。メディアでは様々な切り口で平成が総括されている。平成も実に30年。結構な長期間だ。平成は5年刻みくらいで顔つきが違い、簡単には総括できない。

 平成を振り返る際はついつい「失われた20年」など暗い話になってしまう(それもまた事実なのでしょうがないのだが)。特に中年は「俺たち、はしごを外されたなあ」などといろいろ考えてしまう。今回は平成をちょっとだけゆるく振り返ってみよう。

 この時代を振り返る上で、平成初期と現在で消えたもの、残っているもの、新たに出現したものなどを考えてみると面白い。中には「消えた」と思っていたら、いつの間にか「復活」していたものなどもある。

 ここで面白いのが、音楽だ。平成初期はCDが全盛であり、新たなメディアとしてMDが登場。途中でネットが登場し、ダウンロードやストリーミングなど新たな楽しみ方も増えた。

 気づけばCDは残ってはいるものの、どんどん売上が減少。MDは、消えた。ところが、消えたと思っていたレコードやカセットテープは再びブームとなっている。懐かしい、ひと手間かかる、エモい、などが評価されている。

◆懐かしい「エアチェック」

 今回はカセットテープの話をしよう。最近、著名アーチストがカセットテープで限定の音源を出すなど、何かと盛り上がっている。そういえば、筆者は9月15日に東京ドームで矢沢永吉の69歳記念ライブを観に行ったのだが、セブンネットショッピングとコラボした、ラジカセが登場していた。矢沢永吉のトレードマーク、白の上下のスーツをイメージした白。星のマークも、もちろん「E.YAZAWA」ロゴも入っている。ちょっと、ほしい。

 このカセットテープだが、中年としては、語りたいことがいっぱいあるのではないか。

 録音する時の「ガチャ」という音を回避するために、一時停止ボタンを駆使したなあ(分かります?)とか、「エアチェック」という言葉があり、『FMステーション』などのFM雑誌を読んでは予約したなあとか、この手の雑誌についてきたカセットレーベルを使ったなあとか、バンドやっている奴から下手くそなライブのデモテープ(通称:デモテ)を売りつけられたなあとか、時々テープが絡まったなあとか、レコードやCDをダビングしようとしたら微妙に分数が足りなかったなあ、などである。

 特に、無駄にバラードなど長い曲があると面倒くさい。X(現:X JAPAN)のメジャー1stアルバム『BLUE BLOOD』は「ENDLESS RAIN」と「ROSE OF PAIN」という曲が長く、ダビングがなかなか大変だった。

 しかし、これらはあくまで、全国紙が「カセットテープブーム、再来」などと書く時に出てくる「行儀のよい」「一般論」としての振り返りである。

◆「テープづくり」の黒歴史

 中年がカセットテープを語る時に、避けては通れないのは、「黒歴史」ではないだろうか。たとえば、「テープづくり」だ。「ジャーマン・メタル、究極の10曲」「狂気のスラッシュメタル20選(曲が短いので、20曲入る)」「打倒メタリカ! 日本のメタルBIG4」「死ぬほど踊れるユーロビート」など、あくまで自己満足のテープを編集するなど、今、タンスから出てくると顔から火を吹きそうな恥ずかしい体験である。

 いや、これは、ある意味無害だ。あくまで自己満足だからだ。片思いの異性や、交際相手のために作ったカセットテープの黒歴史こそ、中年は語るべきではないだろうか? 「そんなことをする奴、いるのか?」とあたかも、痛い奴を嘲笑する態度をとる奴がいるかもしれない。いるんだよ。いや、君も中年ならきっとやっていたはずだ。少なくとも、私はやっていた。

 前出の『FM STATION』についていたカセットレーベルを活用。イラストレーターの鈴木英人氏が描いたカバー絵はたまらなかったが、勝負の際には惜しげもなくこれらを投入した。

 持っている音源やレンタルCD、友人から借りた音源などを総動員。曲によってはテープからテープにダビングせざるを得ず、音質はちゃんぽん状態だった。

◆編集にいろいろ知恵を絞った

 テープの編集は、頭を使う。テープの残り時間を考慮しつつ、盛り上がりを考えつつ、さらにはA面・B面も意識しつつまとめる。さらには、シングルのバージョンではない、アルバムバージョンを入れるのもポイントだ。もっとも、中には統一感を無視して曲をぶっこむこともある。突然、ユーミンの後に突然、ブルハ(THE BLUE HEARTS)やBOOWYというパターンだ。

 通学路や、ドライブ、部屋など、気になる異性に聴いてもらうシチュエーションを考慮するのは当然だ。「愛しているよ」などのフレーズが入っている曲を使って、想いを伝える。

 曲の頭文字を拾っていくと「L」「O」「V」「E」になるなどの技はもちろん使う。さらには、テープの最後に、自分の声のメッセージを入れるのは、今思うと、もはや「言葉の暴力」や「嫌がらせ」「愛情の押し売り」とも言える。当時、流行っていた銀色夏生の詩を朗読したり、村上春樹の小説から台詞を引用したり、あるいは溢れんばかりの想いを語るなんて技もある。お手紙はもちろん、同封。曲の解説も書いた。

 なぜ、このような「あるある話」をナチュラルに書けるのか? それは、私がすべて、ナチュラルに実践していたことだからだ。きっと、中年読者のみんなもやっていたことだろう。いや、クラスに一人くらいはいるはずだ。

◆同窓会で再会した「あの子」に贈る曲

 ここで、私が、仮に独身で、同級生と同窓会(実際、10月にあるのだが)で再会したクラスの女子と「ドライブにでも行こうか」ということになったら、どんなカセットテープを編集するか、妄想してみた。こんな曲をお見舞いしたい。

 まず、テープのタイトルはこちら。

 『中年男子が同窓会で再会したクラスの女子とドライブするためのテープ』(昭和後期、平成初期しばり)

<A面>

・希望の轍/サザン・オールスターズ

 クルマを走らせた瞬間、いきなりテンションマックス。『稲村ジェーン』(桑田佳祐が監督した映画)って高校のとき流行ったよねという話をする。

・MOON/レベッカ

 あえて、「フレンズ」ではなく、これ。いきなり人生の世知辛さモードに。

・リフレインが叫んでる/松任谷由実

 イントロでいきなりつかむ曲。どうして歴代の異性と出会ったのかという、いきなり込み入った話に。

・翼の折れたエンジェル/中村あゆみ

 「俺たち心の折れたエンジェルだよね」という話をしたりする。

・そして僕は途方に暮れる/大沢誉志幸

 どんどん鬱モードに。懐かしい雰囲気にひたりつつ、身の上話をするのにぴったり。

◆今は簡単にプレイリストを作れるけど…

<B面>

・ヤングブラッド/佐野元春

 アラフォーにとっては、「SOMEDAY」よりこれ。バブル夜明け前の妙な向上心がみなぎる曲でテンションアップ。

・青空/THE BLUE HEARTS

 団塊ジュニア世代が、体験したニュースを語るのにぴったり。

・季節が君だけを変える/BOOWY

 BOOWYのある意味、ラスト・ソング(最後のシングルであり、最後のアルバムの最後の曲)。「俺たち変わっちゃったよね話」にぴったり。

・ラブ・ストーリーは突然に/小田和正

 脈ありの場合はこの曲で、テンションマックス。

・SAY YES/CHAGE and ASKA

 いろいろあったチャゲアスだけど、これは鉄板。次のデートの約束について「SAY、YES?」と聞く。

・だいすき/岡村靖幸

 なんとなく脈ありなら、この曲を。岡村靖幸はクラスの女子で3人くらいが好きだったアーチスト。

 あまりの黒歴史感、愛情の押し売り感に引いた方もいると思うが、いかがだったろうか。いま、中年に求められているのは、自己開示する勇気である。

 それにしても、現在は簡単にデジタルでプレイリストを編集できる時代。今思うと、なぜ、あそこまで「テープづくり」にパワーをかけていたのだろうか。当時はまだゆとりがあったのか。無駄に情熱があったのか…。

【プロフィル】常見陽平(つねみ・ようへい)

千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

【常見陽平のビバ!中年】は働き方評論家の常見陽平さんが「中年男性の働き方」をテーマに執筆した連載コラムです。更新は原則第3月曜日。

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