論文の執筆を主導した理研の笹井芳樹氏は、多くの疑念で信頼が揺らいだ事態を受け、STAP細胞の存在を仮説に戻すべきだとの判断を示した。疑惑浮上から2カ月後の表明で遅きに失したとはいえ、データの客観性を重視する科学者らしい態度であり、一定の評価はできる。
その半面、笹井氏はSTAP細胞の存在を期待しているようにも見えた。不正認定された画像以外のデータを根拠に、ES細胞の混入説などを強く否定。「今まで知られている細胞でないことだけは確かだ」と述べ、検証すべき価値がある有力な仮説と強調した。
不正問題については説明不足が目立った。不正を否定する小保方晴子氏の主張について所感を聞かれても核心部分への言及は避け、真相究明はほとんど前進しなかった。実験に関する新たな生データの開示もなく、科学界からの期待に応えたとは言えない。
小保方氏への指導が不十分で、自身の責任の重さについては率直に認めた。しかし、直接の部下でなかったことから実験ノートは見なかったと釈明。また、研究に参加したのは終盤だけで、全体を統括することには限界があったと弁明するなど、言い訳とも受け取れる説明もあった。
国内外の複数の研究室にまたがる研究プロジェクトについて、チェック体制をどう確保していくのか。笹井氏は細胞の存否だけでなく、指導的立場の研究者として多くの問題点を検証する必要がある。(長内洋介)