ここ10年、私は自分が博士号を取った天体物理学の分野を超えていろいろな分野で論文を書くようになった。それは、周辺領域の計算科学、プラズマ物理、放射線科学さえも超えて、宇宙工学、惑星科学、放射線生物学、さらには地球科学、分子生物学、生物進化などに広がっている。それぞれユニークな視点を与えるオリジナリティーの高い仕事と自負している、その評価が定まるのは20年後だろうが。
それを可能にしたのは、図書館だ。研究所や大学の図書館は、書籍の所蔵もさることながら、研究誌の購読が大きな任務となっている。私が勤務する理研の図書館は「日本で唯一の自然科学の総合研究所」と謳(うた)うだけあって、多くの分野の雑誌を購読し、比較的早期に電子版購入に踏み切った。
また、理研が購読していない雑誌については、全国の大学・研究所の図書館が連携して運用している文献コピーサービスを愛用させてもらっている。1週間程度の遅れはあるが、ほとんどの研究雑誌のコピーを手にすることができる。大変ありがたいことだ。
現在、学際研究の必要性が叫ばれている。私の経験では、異分野の研究者の講演を聞いたり、一緒に談笑するだけでは、学際研究はその端緒さえにも至らない。講演に先立って関係する論文を読んで、自分なりに論点を予習しておくことが肝要だ。さらに、本番で講演者との真剣勝負の議論を重ね、講演後にも新たに見いだした論点に関する論文を読んで、引き続き復習するという努力が必要だ。予習と復習が重要なのは受験生だけではない。それを可能にするインフラストラクチャーの一つが、図書館をはじめとする充実した研究情報環境だ。
図書館は研究者が研究者であり続けるための生命線である。
◇
【プロフィル】戎崎俊一
えびすざき・としかず 独立行政法人理化学研究所戎崎計算宇宙物理研究室主任研究員 東大院天文学専門課程修了、理学博士。東大教養学部助教授などを経て、1995年より現職。専門は天体物理学、計算科学。