トランプ大統領の選挙キャンペーン時の今一つの発言が、イラン核合意の破棄である。しかし、同合意は国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランによるものである。米国のみの合意ではなく、単独での破棄はできない仕組みとなっている。
破棄するには、合意署名した英仏独露中や後日、決議案として採択した国連安保理に破棄を要請したり、あるいは再交渉を呼び掛けたりする必要がある。だが、その実現の可能性はまずない。
そうであるとすれば、恐らくトランプ新政権が目指すのはイラン核合意自体には手を触れず、核合意の成果をイランが享受できないような方法を積み重ね、イランに圧力をかけることである。
米国独自のイラン制裁が残っていることから、手始めに考えられるのは今でも実現しにくい欧米などの銀行とイランの銀行との取引にますますにらみをきかせ、成立を徹底的に阻むことである。
これと並行して進めるのが、イランの弾道ミサイル発射実験や人権侵害、湾岸での米艦船への妨害行為などの機会を捉えて、可能であれば国連安保理での新制裁、それが無理であれば米国単独での新制裁を導入しイランの手足を縛ることである。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱の大統領令に署名するなど有言実行の姿勢を見せるトランプ大統領だけに、イスラエル、イラン政策が注目される。
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【プロフィル】畑中美樹
はたなか・よしき 慶大経済卒。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、一般財団法人国際開発センターエネルギー・環境室長などを経て、現在、同室研究顧問。66歳。東京都出身。