
「君の名は。」には美術が腕を振るって描いた美しい風景が登場する【拡大】
展覧会場には、ビル群をのぞむ東京の街並みや、湖のまわりに家々が並ぶ田舎の町が、現実よりも魅力的に映ると評判になった「君の名は。」の背景も、多く飾られている。こうした背景を美術監督のひとりとして担当し、映画のヒットに貢献したのが丹治匠氏。1月31日にデジタルハリウッド大学(東京都千代田区)の公開講座に登壇して、新海誠作品で手掛けた仕事を話した。
アニメーションが作られる際に美術監督は、監督の意向を聞きながら舞台となっている場所を想定し、美術スタッフに描いてもらったり、自分でも描いたりして、作品世界の構築を行っていく。「君の名は。」では、新海誠監督が描いた絵コンテから場所や時間帯などを読み取り、そのシーンにぴったりの舞台を整えていった。
公開講座で例に挙げたのが、「君の名は。」の冒頭付近に登場する、横に湖があって奥に対岸が見える場所で、三葉と妹の四葉が階段を降りるシーン。丹治氏は、「絵コンテを元にラフに美術ボードを描いて、対岸はどのくらい近いのかといったことを検証しました」と振り返った。
これに新海誠監督が、「現代日本の田舎としての実在感」というコンセプトを元に修正点を指示。石段の上にブロック塀が置かれ、奥に鉄のフェンスがある状況へと変えて、背景として詰めていった。美術ボードの段階では朝焼けならではの赤みがあったが、「朝のさわやかな田舎の風景なので、空の色とかを変えました。横から光が来ている感じも強調しました」。監督が求めるビジョンを探り、近づけていく対応力が美術監督という仕事には要求される。
言われるとおりに仕事をすれば良いというものでもない。「今回の仕事では、できるだけ美術スタッフの創造性に頼りたいところがありました」と丹治氏。三葉の部屋で、女子高生らしく小物が置かれ、ドライヤーが転がされた様子は、丹治氏が仕事を頼んだ女性の美術スタッフが自分で考え、整えていったという。「みなが指示のとおりにやったら、豊かな映画にはなりません。想像していなかった良いものの総体が映画、アニメーションです。それが深さになると思います」。監督が構想する世界観から逸脱しない範囲で、クリエーターたちがそれぞれに発想したものを認め、拾い上げて束ねる能力が、美術監督という職には必要なようだ。
「君の名は。」のヒットを受けて登場した新規ビジュアルの場合は、逆に美術監督の発想を超えた新海誠監督の感性が働いた。湖を見下ろす山上で、奥の方から差す太陽の光を浴びながら、三葉と瀧が向かい合っている構図。「完成したものを見たらすごく光とかが足されていて、思ったより派手になっていました」と丹治氏は指摘する。三葉と瀧の周囲には雲がたなびき、そこが輝いている。「太陽が後ろにあるのに、手前に光は来ないでしょう? 矛盾していますが美しければそれで良いんです」。
新海誠監督の作品では、「雲の向こう、約束の場所」「秒速5センチメートル」で美術を担当し、「星を追う子ども」では美術監督を務めた丹治氏。「君の名は。」を経て次にどのような世界を創造していくのか。新海誠監督の次回作ともども期待がかかる。