
会見する神戸市立医療センター中央市民病院の高橋政代医師(手前)と栗本康夫部長=28日午後6時18分、神戸市中央区(安元雄太撮影)【拡大】
他人の細胞から作った人工多能性幹細胞(iPS細胞)で網膜の細胞を作製し、「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑(おうはん)変性」という目の病気の患者に移植する手術を理化学研究所などのチームが28日、世界で初めて実施した。手術は無事終了し、iPS細胞による再生医療の普及に向け大きく前進した。
チームによると、患者は兵庫県在住の60代の男性。同日午後、神戸市立医療センター中央市民病院で手術を行った。
京都大iPS細胞研究所が備蓄している健常者のiPS細胞を使い、理研が網膜細胞を作製。免疫のタイプが患者と同じで、拒絶反応が起きにくいことを確認して患部に移植した。
加齢黄斑変性は網膜の中心にある黄斑という場所の機能が加齢に伴い損なわれ、視力が低下する病気。移植後の拒絶反応や症状改善の有無などを1年間観察し、3年間の追跡調査で安全性と有効性を確認する。
理研などは平成26年、患者自身の細胞から作ったiPS細胞で網膜細胞を作製し、移植する世界初の手術を実施。患者は視力低下が止まるなど術後約2年たっても経過は順調だ。
だが移植までの準備に11カ月かかり、費用も1億円と高額なことが課題だった。他人の細胞を使うと期間は約10分の1、費用も5分の1以下で済むとしていた。
移植手術では、網膜細胞を溶液に浮遊させて患部に注射する方法を採用した。網膜の一部を切除し、細胞をシート状に加工して埋め込んだ前回と比べ、患者の負担や感染症の恐れが少ないという。