“見える化”で節電意識
「電力消費量の“見える化”によって、30人のスタッフ全員が自主的な節電行動をとるようになり、電気代は大きく下がりました。また、15年には駐車場に電気自動車(EV)用の急速充電器を設置しました。週に1回、月に1回銭湯を利用していただけますとウォームシェアになり、温暖化対策に貢献できます」
「おぶ~」の省エネ・創エネ効果ですが、02年のオープン時と18年11月現在の灯油使用量を比較すると30%減っており、LPG(液化石油ガス)の使用量は55%減らすことに成功しました。電力消費量は02年比35%減っているそうです。これが、エネルギーコストの削減につながっています。山元社長に今後の取り組みについてうかがいました。
「太陽熱でお湯をつくる太陽熱温水器を、長野県の補助金を活用して導入することを検討しています。また、おぶ~は、松本市の災害拠点施設にも登録しています。18年は災害が多い年でしたが、温暖化対策としての省エネ・創エネ設備は、事業継続マネジメント(BCM)にもつながります。災害時も想定し、自社にとって最低限必要な取り組みは何かを考えています。日本独自の“温泉文化”を通じて、少しでも温暖化対策に貢献できればと思っています」
経営改善の視点も加味
日本商工会議所が17年12月に公表した中小企業の温暖化対策「商工会議所環境アクションプラン」によると、中小企業は今後、日本経済再生の観点からも「生産性革命」の実現が要請されるとしています。
中小企業庁「中小企業白書2010年版」によると、日本のエネルギー起源のCO2排出量のうち、中小企業の排出量は12.6%を占めています。産業部門の総CO2排出量のうち11%が中小企業からで、運輸部門では34.4%、業務部門では80.0%が中小企業からの排出というデータもあります。
同会議所は、中小企業の課題として、温暖化対策は優先度が低く、投資を伴わない取り組みであっても実施率が低いことや、温暖化対策の取り組み内容やメリットが分からない中小事業者が少なくないことを挙げています。また、取り組みの実施にあたっては、コスト面の課題もあります。
そのため、中小企業の温暖化対策としては、従来のように省エネありきで進めるのではなく、前向きな経営改善や生産性向上への取り組みのなかに、省エネの視点も加味しながら進めることで、自社の抱えるさまざまな経営課題を解決していくことが求められます。
世界の平均気温が上昇すると、気候メカニズムの変化により各地で異常気象が頻発するおそれがあるため、温暖化対策に取り組むことは重要です。
今回は松本市のスーパー銭湯の事例を紹介しましたが、多くの事業者が自社の経営改善の取り組みの一環として省エネ・創エネを捉え、環境負荷低減の促進に貢献していくことが期待されます。
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【プロフィル】松本真由美
まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。