道標

20年度からの小学校英語教育 他教科と連携、嫌いにさせない工夫を

 2020年度から小学校5、6年を対象に、教科としての「英語」が始まる。使われる教科書について、報道から得た情報を基に感想を述べたい。

 検定教科書は、学習指導要領に準拠することが前提だ。英単語は600~700語程度と定められ、「聞く」「話す」だけでなく「読む」「書く」も勉強する。現在進行形は習わないが、過去形や疑問文、命令文が含まれ、中学生向けの教科書かと思うほどの内容である。疑問文は語順が変わるので、普通の文と並べて違いを示すなど各社とも苦労したようだ。

 食事の場面では“What would you like?”(何になさいますか)などの丁寧表現が登場し、日常的とはいえ難易度は高い。文法は教えないことになっているが、児童が質問した場合に、状況に応じた使い方を英語が専門ではない教員が説明できるのだろうか。

 入門期に欠かせない発音やリズムはどう教えるのだろうという不安もあるが、教科書にはQRコードが載っていて、単語や会話を聞けるという。スマートフォンで自宅学習もできるようだ。かつては携帯電話を子供に持たせることが問題になったが、今後はスマホが英語学習の必携になりそうだ。持てない子やスマホ漬けの子への対応も必要だろう。

 懸念されるのは、教科としての英語では、勉強した結果が「成績」という形で評価されることだ。子供たちの英語の、何を、どう評価するのかは極めて難しい。

 これだけ習得すべき単語数が多いと、躍起になって、成績をつけやすい単語テストに頼る教師が出てくるかもしれない。文部科学省によると、単語を暗記させることは想定しておらず、成績評価について、参考資料の提供を検討しているというが、一つ間違えば、子供は自信や意欲を失い、中学入学前に英語嫌いになりかねない。

 未知の単語や文章をどうかみ砕いて教え、親しみを持たせるのか。経済的に余裕がある家庭では塾などに通わせるだろうが、余裕がない家庭の児童がついていけなくなり、意気消沈しないよう工夫が求められる。

 そのために念頭に置くべきことは、子供を英語嫌いにさせない配慮である。教科書では「~ができる」という表現が強調されているが、「できなくても大丈夫。ゆっくりやろう」という気持ちの余裕を親も教師も持ってほしい。そうでないと、英語の暗記を強要しかねず、子供たちが自ら気づくような学びにならない。

 例えばローマ字は、3年の国語で習った訓令式とは違うヘボン式が英語で登場する。その違いを「訓令式で『チ』はtiでしたが、ヘボン式ではchiです」とだけ教えるのでなく、それぞれの音の違いを子供たちに発見させたらどうだろう。

 音楽の時間に「きらきら星」を歌う場合は英語で歌わせたらいい。発音を指導する絶好の機会になる。星が「きらきら」を、英語では“twinkle”ということを知り、英語は音もリズムも日本語と全く違うことに気づいたら、それは異質な言葉を発見したことになる。

 他教科と連携しながら英語を楽しく学ぶ機会を探し、子供たちが「英語って、面白い!」と興味を持ち、元気に中学へ進んでほしいと切望する。

                  ◇

【プロフィル】鳥飼玖美子

 とりかい・くみこ 立教大名誉教授。同時通訳者を経てラジオやテレビの英語講座で活躍。米コロンビア大大学院修士課程、英サウサンプトン大大学院博士課程修了。日本通訳翻訳学会元会長。近著に「子どもの英語にどう向き合うか」。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus