鬱病ではなく双極性II型障害…問診を補強する客観的データ
最先端の鬱治療とは(2)「結論から言うとまだ治っていません。鬱(うつ)病ではなく双極性II型障害(II型障害)です」。1年前に診断された鬱症状の完治を確認するつもりで受けた光トポグラフィー検査で思いがけない結果が出た。新宿メンタルクリニック(東京都新宿区西新宿)の川口佑院長は「そもそも1週間で良くなる鬱病なんてありません」と指摘した。II型障害は現代型鬱病、逃避型鬱病と呼ばれているものとほぼ同じもので「会社には来られないけれど家では元気」というものだ。
軽い躁状態と鬱状態の波があるII型障害が鬱病と診断されるケースは非常に多いという。「多くの患者が調子の悪い(鬱状態の)ときだけ受診するので、症状を聞いていけば鬱病と判断されてしまう」と川口院長。軽い躁状態のときには病気の自覚がないため通院することはめったにない。客観的データとして問診を補強する検査の果たす役割は大きい。
「あ」で始まる言葉を考えたときの前頭葉前部の血流量を表すグラフを見ながら川口院長が解説する。脳が活発になり消費した酸素を補うため、新たな血液が送り込まれてくる。検査でかぶったヘッドギアでその血液量を測定しグラフ化していく。「課題をやっているときに脳のモードが切り替わっていることをイメージしてほしい」と話し、記者の脳が描いた曲線を指し示した。
健常者に比べて初動が鈍く、一度ピークを迎えた健常者の曲線が元の状態に戻る頃にようやくピークを迎えている。下がり方もゆっくりだ。側頭部を見ると、初動はよいものの今度は上がりっ放しの状態。ピークが高すぎるうえ下がるまでに時間がかかり過ぎている。健常者はすでにモードを切り替えたのに、記者はいつまでも課題にとらわれているわけだ。
「II型障害の波形パターンです。周囲がおかしいと思うほどのハイテンションではなくても、自分の中で調子の良い悪いがあるのではないですか。一日単位で見ても朝が一番ダメで夜にかけてエンジンがかかるという感覚があるはず。循環気質といってもともと組み込まれた脳の神経細胞のパターンなので変えることができないものです」
突然の宣告に戸惑ったがすっきりした部分もある。鬱という診断に違和感があったからだ。休職から1カ月半しか経過していないのに復職時には食欲も戻り、仕事への意欲もそれなりに沸いていた。休職中の後半には「実は休みたいだけの詐病だったのではないか」と自己嫌悪に陥ることもあった。
II型障害の症状に思い当たることは多かった。朝は頭も体も重く使い物にならないことが多い一方、夕方から深夜にかけての方が仕事がはかどったりする。徹夜も平気な方だ。楽しみにしていたことでも当日の朝には行動を起こすのが億劫になる。生まれついての怠け者だと思っていたのだが。
ちなみにI型障害は躁鬱病。気質はII型障害と似てるが精神病的症状を伴う極端なハイテンションと落ち込みが現れるので、別の病気と考えてよいとのこと。またI型障害を鬱病と誤診する医師はまずいないそうだ。
川口院長が「ものすごく周りに気を使いますね。自分が否定されないように結構いろいろと…」と語りかけてきた。痛いところを突いてくる。確かに自分は周囲に迎合しがちでとても調子がよい人間である。こんなことまで分かってしまうのか。ああ恥ずかしい。
「必ずしも悪い性格ではありません。勉強でも仕事でも乗ればどんどん良い方向に進みます。思い切った行動を取ることもできる」とフォローしてくれたが、「ひとたび悪い波に入ると…諸刃の剣ですね。II型障害の離婚率がものすごく高いというデータもあります」。離婚2回。3回目の結婚はないと思うが…治療せねば。
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「循環気質のビジネスマンは注意が必要だ」と川口院長が警鐘を鳴らす。「仕事量の増加、異動、昇進などきっかけは大体決まっています。責任がのしかかってきてII型障害を発症するケースが多い」という。
「周囲はむしろ気を使ってくれるのに会社に行けない。でも家では元気。場合によってはゴルフもできる。いいところとダメなところがはっきりしてくるので怠け者に見られる。それを現代型鬱病と呼んでいるが、その本質はII型障害であることが多いのです」
誤診が多いことも問題だ。鬱病に必要なのは気分を上げる抗鬱剤。一方、II型障害には反動による落ち込みを防ぐため、ハイテンションになるのを防ぐ安定剤も必要になる。「難治性鬱病の人はほとんどがII型障害といっていい。自分の性格だと長い間思っていたことで心理的な歪みもかなり出てきます」
診断に加えて投薬の難しさも。問診だけに頼った精神医療に不安が生じてくる。1年前にかかったメンタルクリニックの名誉のために記すが、「薬にはなるべく頼りたくない」という希望を汲んで、いたずらに薬を増量せず合う合わないを慎重に判断しながら治療を進めてくれたことに深く感謝している。このような一文を入れるところがII型障害の特徴か。
「FDA(米食品医薬品局)が認可した磁気による治療があります。カウンセリングも併せて実施することがとても重要ですが投薬はしません。説明しましょうか?」。川口院長が提案に記者の目がゆっくりと輝き始めた。
=【最先端の鬱治療とは(3)】は2月掲載予定。
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