潮目変わった経営環境 賃上げの流れストップする懸念も

 

 2016年春闘で、相場形成に影響が大きい自動車大手と電機大手はベースアップ(ベア)について、前年の半分以下の回答が相次いだ。今期に過去最高の営業利益を見込むトヨタ自動車が経営環境の悪化などを理由に、昨年の4割に満たない月額1500円のベアを回答したことがその流れを決定づけた。

 「3兆円近い利益を上げ、政府がリード役として最も賃上げしてほしいと思っているトヨタが満額回答しないのか」

 交渉終盤、自動車各社の判断の目安になるトヨタがベアに消極的な姿勢を示していたことに、他メーカー幹部から戸惑いの声が漏れた。

 自動車業界はアベノミクスを受けた円安で過去最高益が相次ぎ、法人税減税などの恩恵も受けやすい。各社とも政府が呼びかける「経済の好循環」への貢献を意識していた。一方で年明け以降、鮮明になってきた世界経済の減速や円高基調も経営側の判断を悩ませる要因だった。

 トヨタは集中回答日前日の15日、1500円のベアで決着。雪崩を打つようにホンダが1100円、富士重工業が1300円と、1000~1500円のベアが相次ぎ、それを上回ったのは3000円で満額回答した日産自動車のみだった。

 トヨタの一時金も含めた年収ベースの賃上げ率は約3.2%で、幹部は「国が提唱する2020年のGDP(国内総生産)600兆円に向けた取り組みに寄与している」と政府への配慮をにじませる。ただ、日産(約3.6%)を下回る水準で力不足は否めない。

 一方、日立製作所やパナソニックなど電機大手も、ベアについて、労組が要求した月額3000円に対し、月1500円を回答し、前年から半減した。

 電機大手の労使交渉は要求額の半額に当たる1500円を軸に展開された。労組は2000円への上積みを模索していたが、交渉終盤にトヨタでさえ2000円超のベアは不透明との見通しが伝わり、上積みを断念したとされる。

 トヨタの豊田章男社長は回答にあたって「競争力の現状に加え、為替の動向など取り巻く経営環境はこれまでと潮目が変わった」とコメントした。

 ベアの“大盤振るまい”を避けることで競争力の維持に配慮した格好だが、デフレ脱却に向けて続いてきた賃上げの流れがストップする懸念も根強い。