磁気刺激で鬱治療「改善の質が向上」 1年間で手応えも
ストレス社会で働く(3)昨年12月から始まった従業員のメンタル不調を未然に防ぐ「ストレスチェック制度」で、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」は、本人のストレス要因、ストレス反応のほか、周囲のサポート状況についても回答させている。業務を1人で抱え込む状況を避けるためだが、発症してしまえば、会社ではなく従業員自身が治療するしないの判断をするしかない。
〔前回まで〕光トポグラフィー検査で鬱診断 問診を補完する客観的データ
「職業性ストレス簡易調査票」は、ストレス要因として仕事の量的負担・質的負担・身体的負担度・対人関係・適性など9項目、ストレス反応として活気・イライラ感・疲労感など6項目を質問し、自分自身の状態について、良い・やや良い・普通・やや悪い・悪いの5段階で回答させている。
さらに周囲のサポート状況として上司、同僚、家族・友人について尋ねている。周囲のサポートを得られないまま、業務を1人で抱え込んでしまうことで、メンタルを害するリスクが上昇するからだ。
昨年11月に鬱(うつ)病と診断され、今年2月に職場復帰した映像製作会社に勤める30代の男性社員は、周囲から「好奇心の塊」と評されるほど自身の仕事を天職のように感じていたという。他の社員の1.5倍の仕事量をこなし、それでも嬉々として取り組んでいたそうだ。
心身に変化が出たのはこれまでのノウハウが思うように生かせず、「先が見通せない仕事」に取り掛かってからだ。同じような仕事がその後にも控えていた。「いつまでたっても終わらない」という意識が芽生え、ある朝突然会社に行けなくなったという。男性は「不本意な仕事が続いていなかったら違っていたはずだ」と振り返る。
仕事の性質上、個人での作業が多くなり、オーバーワークになることも度々だった。家の近くにあるクリニックの問診で鬱病と診断され、会社に連絡を入れたが、突然にもかかわらずその日から長期休養を取ることになった。会社も異変の兆候をつかんでいたのかもしれない。
会社の対応が素早かったのは不幸中の幸いだった。3カ月後に職場復帰し、生活レベルでは問題なく過ごしている。専門家の間では、鬱病になりやすいタイプとして、性格的に人に物事を頼めないタイプが指摘されている。
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30代男性は光トポグラフィー検査で鬱病と診断され、TMS(経頭蓋磁気刺激)治療を受けることを決めた。新宿ストレスクリニック(東京都新宿区西新宿)は治療に使う機器を国内最大となる63台所有している。
大脳の背外側前頭前野に磁気刺激を与えることで、さらに奥にある不安や悲しみといった感情をつかさどる扁桃(へんとう)体も刺激する。米食品医薬品局(FDA)が2008年に鬱病治療で装置を使うことを許可している。
薬のいらない画期的な治療として米国で目覚しい成果をあげているが、日本では厚労省が薬事承認を審査している最中で、保険が適用されないため高額な治療費がかかるのがネックになっている。
なぜ磁石なのか? 同クリニックの川口佑院長は「電気の場合、髪の毛、皮膚、骨などに流れてしまって、脳に円滑にパワーを送ることができない。あとは副作用がないということですね。磁気は基本的に無害です」と話す。
男性が歯科の診察台を思わせるTMS治療機器のある個室に入った。医師と機器を操作するトリーターが、鼻から後頭部の突端までなど複数個所の距離を正確に測り、男性の頭部にペンで印を付けていく。
筆者も双極性II型障害と診断され、ちょうど1年前に同じ治療を受けたが、そのときには軽く磁気を当てて、指の反応を見るなどして決めていた。「何%かで部位がずれる可能性を指摘されていた。脳波測定で用いる計測方法を採用することで、より正確な部位へ照射するようにした」(川口院長)という。
タタタタタと一定のリズムで加えてきた磁気刺激ついても、患者の症状にあわせてタ、タ、タ…などと以前よりもバリエーションを増やした。治療は進化し続けている。
改善率こそ約8割と1年前と変わらないが、川口院長は「自傷行為がしっかりと収まるなど不安の程度など点数では測ることができないような質の改善が増している」と手応えを感じている。
診察台に座った男性の頭部にサイドパットと磁気を発生するコイルが固定された。いよいよTMS治療が始まった。
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