香港トラム・トラモラミックツアー(2)日本の“乗り鉄(私)”が出合った香港の“撮り鉄”たち
江藤詩文の世界鉄道旅112年前の創業時には26台からはじまった香港トラムだが、現在は163台の車両を保有し、そのうち赤と緑の2台のアンティーク車両は、イベントなど貸し切りにすることができる。
香港のトラムといえば、上部がふさがったエアコンなしの2階建てで、2階は天井高が低く圧迫感があり、いつ乗っても混んでいて、運転士はほとんど愛想がない。それはそれで旅情があるが、ツアーや貸し切りに使われるアンティーク車両はルーフトップ付きで開放感があり、眺めが抜群にいい。高層ビルのすき間に低く張り巡らされた頭上の架線は、手を伸ばして飛び上がればなんだか届きそう。
そんなアンティーク車両は、香港ではパーティや結婚式の2次会などに重宝され、とくに需要が高いのはプロポーズとか。香港の男性ってロマンチストなんですね。
のんびり進むトラムのルーフトップに立ち、だんだん数を増すきらびやかなネオンサインに見とれていると、正面から賑やかなパーティ車両がやってきた。身体にぴったりしたドレス姿の、いい感じに酔っぱらった若い女性ばかりが、ルーフトップにぎゅうぎゅう詰めになって、音楽をガンガンかけながら踊っている。ちなみにこちら(ツアー車両)は、やたらと明るい中国音楽を控えめなボリュームで流しているだけだ。すれ違いざま、彼女たちは手を振ったり投げキッスやウインクをしたり。こちらまでちょっとテンションが上がる。ツアー車両は人びととのコミュニケーションも楽しめるのだ。
こんな魅力的なツアーだけに、鉄道ファンが見逃すわけはない。案の定、上環のウエスタンマーケット前では、暮れなずむ街を背景に復元されたクラシック車両を撮影しようと、何人かが三脚を立てて待ち構えていた。
おっ、香港にも鉄道ファンがいるいる。私はいまからこれに乗るんだよ。実際にことばには出さないけれど、自慢したい気持ちで思わず顔がにやけてしまう。が、彼らはいたって冷静だ。後で聞いたことだが、香港の“撮り鉄”は、電車に乗ることにはあまり興味がないそうだ。
なんだ、残念。自分の“乗り鉄”体質を確認した香港の夜だった。
■取材協力:香港政府観光局
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら
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