漫画は“9番目の芸術”である 世界一のルーヴル美術館も認める高い価値

 
フランスのバンド・デシネと日本の漫画がルーヴル美術館の名の下に集う「ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~」

 ストーリーの面白さやキャラクターのかっこうよさを楽しむエンターテインメントであると同時に、高度な作画技術や表現技法を駆使して生み出された芸術として、漫画を捉える考え方が定着して来ている。世界一の美術館として名高いフランスのルーヴル美術館でも、漫画を絵画や彫刻、映画といった列に並ぶ“9番目の芸術”と認識。7月22日から東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで、ルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」を開いて、フランスと日本の漫画家たち16人の作品を紹介する。ほかにも今夏から秋にかけて漫画やアニメーション関係の展示会が各地で開催。読んだり見たりする漫画やアニメーションの楽しみ方に“体験”というものを加えている。

 「フランスのバンド・デシネと日本の漫画というお互いの視点を、改めて交差させることが可能になる展覧会だと確信している」。4月に行われた「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」の開催発表会で、駐日フランス大使のティエリー・ダナ氏は展覧会が持つ意義をこう語った。

 ここで挙げられたバンド・デシネ(BD)とは、主にフランスやベルギーで発達した漫画のことで、デッサン力に優れた緻密な絵と、風刺性も備えた奥深いストーリーを持っている。代表的な作者のジャン・ジロー氏(メビウス)は、「千と千尋の神隠し」の宮崎駿監督や「AKIRA」の大友克洋氏らに影響を与え、日本の漫画やアニメーションに新しい風を吹き込んだ。

 ルーヴル美術館ではこのBDを使い、歴史的な名画や彫刻といった芸術作品を所蔵する美術館の魅力を伝える試みとして「ルーヴル美術館BDプロジェクト」を立ち上げた。BD作家だけではなく日本の漫画家にも参加を仰いで、ルーヴル美術館をテーマにした作品を自由に描いてもらった。これまでに、ニコラ・ド・クレシー氏の「氷河期」や、「ジョジョの奇妙な冒険」で知られる荒木飛呂彦氏の「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」といった作品が刊行された。

 こうした試みを改めて紹介し、BDや漫画が持つ魅力とルーヴル美術館の存在を日本でアピールするために企画されたのが、日本での開催となるルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」。そこには、BDの作者として、ニコラ・ド・クレシー氏やエンキ・ビラル氏らが参加し、日本からも荒木氏のほか「孤独のグルメ」「神々の山嶺」の作画を担当した谷口ジロー氏、「ピンポン」の松本大洋氏らが参加する。

 ほかにも、フランス革命をテーマにした「イノサン」の坂本眞一氏、映画にもなった「テルマエ・ロマエ」やとり・みき氏と共著で「プリニウス」を描くヤマザキマリ氏、圧倒的な画力で世界中にファンがいるイラストレーター・漫画家の寺田克也氏、「海獣の子供」が第13回文化庁メディア芸術祭優秀賞に輝いた五十嵐大介氏が登場。いずれ劣らぬ画力の持ち主たちだけに、BD作家との“対決”を楽しめそうだ。

 首都大学東京准教授の古永真一氏は、「世界一の美術館であるルーヴルがこういう展覧会に乗り出したことはフランスでも日本でも意味がある」と指摘。「漫画には芸術的な価値があるということが、これからも広まっていくだろう」と話して、ルーヴル美術館という大看板を得ての漫画の浸透に期待を寄せる。もとより“クールジャパン”の尖兵として文化的、経済的に大きな役割を果たしている日本の漫画を、ルーヴル美術館がどのような視点から芸術的なものとして評価しているかを確認できる、興味深い展覧会になりそうだ。

 「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術」の会期は7月22日から9月25日で、会場は森アーツセンターギャラリー、開館時間は午前10時から午後8時、会期中は無休。このあと大阪で12月1日から2017年1月29日の日程で開催し、福岡、名古屋へも巡回する。

 芸術の都・パリから漫画が日本に来る一方で、千年の古都・京都では、漫画やアニメーションといったエンターテインメントを集めたイベント「京都国際マンガ・アニメフェア2016(京まふ)」が9月17日と18日に開催される。出版社やアニメーション制作会社、映像メーカーが出展して最新の作品を紹介。京都国際マンガミュージアムでは展覧会も開かれる。京都が会場ということで、伝統工芸について学べるイベントも行って、日本だけでなく海外から来た観光客にも、漫画やアニメーションとともに日本の匠の技を知ってもらう。

 ふだんは東京にいる出版社の漫画編集者たちが京都を訪れ、持ち込まれる原稿を見てアドバイスをする企画も行う予定。ネット時代で誰でも自由に作品をネット上に発表できるようになっているが、プロの編集者に直接原稿を見てもらえる機会はやはり貴重。「京まふ」ではこうした試みを通して、地域のハンディなく優れた漫画作品や漫画家を送り出し、日本の漫画文化、アニメーション文化を発展させようとしている。

 漫画に関する展覧会では、川崎市中原区にある川崎市市民ミュージアムが、7月23日から9月25日まで「『描く!』マンガ展 ~名作を生む画技に迫る-描線・コマ・キャラ~」を開催。ストーリーやキャラクターで注目されがちな漫画の作画技術や表現技法にスポットを当て、漫画家たちによってそれぞれ違う描線や、独特のコマ割りが持つ効果などを解説していく。

 出展される漫画家は、赤塚不二夫氏や石ノ森章太郎氏、手●(=塚のノ二本に「、」を重ねる)治虫氏といった往年の人気漫画家から、「よつばと!」のあずまきよひこ氏、「ドリフターズ」が近くアニメーション化される平野耕太氏ら現在活躍中の漫画家まで実に多彩。会期中には漫画家や評論家によるトークイベント、コマ割りについて学んだ上で実際に漫画を描いてみるワークショップなどが開かれる予定で、こうした展示や企画を通して、漫画に込められた作画技術の凄さに関する理解が深まりそうだ。