“2.5次元ミュージカル”人気の理由 転機は「テニミュ」、リアルの希少価値
漫画やアニメーション、ゲームの世界を舞台化した、「2.5次元ミュージカル」と呼ばれるエンターテインメントが人気だ。公演数も観客動員数も増加を続けており、東京都内には専用劇場もできて、国内のファンや外国からの観光客を引きつけている。盛り上がりの背景を、一般社団法人日本2.5次元ミュージカル協会代表理事で、演劇プロデューサーとして数々の舞台を手がけてきたネルケプランニング代表取締役会長の松田誠氏が語った。
ライブやイベントに関連した機材や技術などを見せる事業者向けの展示会、第3回ライブ&イベント産業展の基調講演に登壇した松田氏は、1974年に初演されるや“ベルばらブーム”を巻き起こした宝塚歌劇団の「ベルサイユのばら」や、93年スタートで、今も続く「美少女戦士セーラームーン」のミュージカルなどを例に挙げて、日本における2.5次元ミュージカルの流れを振り返った。
「ターニングポイントになった」作品として挙げたのが、2003年に登場したミュージカル版「テニスの王子様」だ。ボールを打ち合うテニスというスポーツの雰囲気を、ボールを使わず舞台上に再現する演出上の工夫に加え、若手の俳優たちが舞台を通して成長していく姿を見守る感覚がファンを引きつけた。
キャラクターを演じる役者が卒業して、他の舞台やドラマ、映画などで活躍するようになる一方で、これが初舞台というような役者が参加して来る。観客はこうした新人を応援しに劇場へとかけつける。ここに“テニミュ”が10年以上経った今も人気を失わず、「2.5次元ミュージカルの成功例」と呼ばれるまでになった理由がある。
日本2.5次元ミュージカル協会の調べでは、2.5次元ミュージカルの15年の観客動員数は145万人で、前年の128万人から大きく伸びた。タイトル数も前年の91タイトルから15年は100タイトルへと増加した。劇場の閉鎖や改修が相次ぐ“2016年問題”が取りざたされている今年も、「刀剣乱舞」など人気作品の舞台化があって人気が衰える気配はない。
2.5次元ミュージカルが強い支持を集めている理由は何か。松田氏は「バーチャルの普及で、リアルの希少価値が高まったこと」があると話す。「ネットが普及して、映像でも音楽でもすぐに手に入ってしまう。こうなると逆に、すぐに手には入らないリアルなものが見たくなる」。その好例が演劇だ。役者たちが肉体を駆使して演じ、それゆえに毎回少しずつ異なる舞台は、劇場に行かなければ楽しめない。
2つめの理由が、漫画やアニメーション、ゲームといった原作から舞台へと表現形式が変わり、見る側に“脳内補完”が起こること。「弱虫ペダル」という、自転車のロードレースがテーマになった漫画が原作の舞台に自転車そのものは出てこない。観客はハンドルだけを手にして激しく足を動かす役者たちの姿に、レースでしのぎを削っている様を見る。
「車輪はいらない。必要なのはハンドルと運転をしている人間の熱意。ハンドルひとつで役者たちが思い切りこぐパントマイムで、疾走感や熱量を表現することに成功した」と松田氏。工夫によって見る側に背景を想像させ、感情を移入させる。最近はプロジェクションマッピングを使い、3次元の役者に2次元の映像を重ねて立体感を出す舞台も登場して、表現の幅を広げている。
3つめの理由は、キャラクターや物語の認知度だ。2.5次元舞台の場合、観客は漫画やアニメーションなどを通してストーリーを知り、キャラクターへの関心を育んでいる。そうしたキャラクターが作品から抜け出て目の前に現れる。問答無用で作品世界に入っていける。
この認知度は、海外で2.5次ものの舞台が受け入れられる上で「大きなファクターになる」と松田氏。「海外に漫画やアニメ、ゲームが入っていって認知されている。観客はある程度の設定や物語を分かって見ている」。だから強いというわけだ。
それを証明するように、近年、「美少女戦士セーラームーン」「テニスの王子様」「NARUTO-ナルト-」「黒執事」といった作品の2.5次元舞台が、上海やマレーシア、シンガポールといった地域で相次ぎ上演され、大勢の観客を集めている。韓国では、現地のキャストによる「デスノート」のミュージカルが上演され、高い歌唱力で観客を魅了した。漫画やアニメーションに続き、世界で活躍する“日本発”のエンターテインメントとして、2.5次元ミュージカルは大きな可能性を持っている。
インバウンドという面でも、日本へ舞台を見に来る観光客の増加が期待さるという。日本2.5次元ミュージカル協会では、東京・渋谷のNHK前に「アイア2.5シアタートーキョー」という専用劇場を持ち、2.5次元ものの舞台を連続して上演している。「海外の人が日本に来た時、どこでやっているかを調べなくてもいい」。劇場ではスマートグラスを用意して、かけた人が望む言語の字幕を、好みのサイズで表示できるようにしている。
グッズ販売といったマーチャンダイジングが他の演劇とは違って好調で、パッケージ化されても「舞台では見えなかったアップの顔を見たいから」と観客が購入する傾向が2.5次元ミュージカルにはある。
劇場の収容人数という制約も、映画館などに上演を生中継するライブビューイングの普及で乗り越えつつある。ビジネスの可能性は広がるばかりだ。
課題があるとしたら、「今見ている90%は女性で男性が少ない。ジュニアやシニアもまだ見ていない」と松田氏。そうした層に受ける2.5次元ミュージカルは何か。数々の工夫で漫画やアニメーション、ゲームの世界を舞台に移してきた業界だけに、あらゆる年齢をファンにして、劇場へと足を運ばせる作品を生み出してくるだろう。
関連記事